
太陽光発電の自家消費率とは
太陽光発電の自家消費率とは、太陽光パネルで発電した電力のうち、自宅で消費する電力の割合を指します。例えば、1日に10kWhの電力を発電し、そのうち3kWhを自宅で使用した場合、自家消費率は30%となります。
一般的な住宅用太陽光発電システムでは、昼間に発電した電力を自宅で使い、余った電力は電力会社に売電するという仕組みになっています。FIT(固定価格買取制度)期間中は高い価格で売電できていたため、自家消費よりも売電を優先する考え方が主流でした。
しかし、FITの買取期間が終了する「卒FIT」を迎えると、売電価格は大幅に下がります。大手電力会社の買取価格は7〜9円/kWh程度まで下がるため、発電した電力をできるだけ自宅で使った方が経済的にお得になるのです。
自家消費率の計算方法
自家消費率の計算式は非常にシンプルです。
自家消費率(%)= 自家消費した電力量(kWh)÷ 発電した電力量(kWh)× 100
例えば、年間の発電量が4,000kWhで、そのうち1,200kWhを自宅で消費した場合: 1,200kWh ÷ 4,000kWh × 100 = 30% となります。
この数値が高いほど、発電した電力を無駄なく自宅で活用できていることになります。
一般的な家庭の自家消費率は?
標準的な家庭の自家消費率は、おおよそ20〜40%の範囲内に収まることが多いです。平均的には約30%程度とされています。つまり、発電した電力の3割程度しか自宅では使えておらず、残りの7割は売電されているのが現状です。
この自家消費率は、ライフスタイルによって大きく変わります。日中に在宅している家庭では自家消費率が高くなる傾向にあり、共働きで日中は不在という家庭では20%程度に留まることもあります。反対に、在宅勤務が多い家庭や高齢者のいる家庭では40%以上になることもあるでしょう。
自家消費率を高めるメリット
太陽光発電の自家消費率を高めることには、いくつかの大きなメリットがあります。
最も大きなメリットは、電気代の削減効果です。自宅で発電した電気を使えば、その分だけ電力会社から購入する電気が減るため、電気代の支払いが少なくなります。例えば、電力会社の電気料金が30円/kWhだとすると、1kWhの電力を自家消費すれば30円の節約になります。
一方、卒FIT後に同じ1kWhを売電すると、わずか7〜9円程度の収入にしかなりません。つまり、売電するよりも自家消費した方が3倍以上も得というわけです。
また、自家消費率を高めることで停電時の電力確保にもつながります。太陽光発電システムによっては、停電時でも発電した電力を使える「自立運転機能」を備えているものもあります。日中の太陽光発電と蓄電池を組み合わせれば、災害時の電力確保にも役立ちます。
電気代削減効果はどれくらい?
具体的な数字で見てみましょう。標準的な5kWの太陽光発電システムを例に考えます。
年間発電量が5,000kWh、自家消費率30%の場合:
- 自家消費電力量:1,500kWh
- 売電電力量:3,500kWh
電気料金を30円/kWh、卒FIT後の売電単価を8円/kWhとすると:
- 自家消費による電気代節約:1,500kWh × 30円 = 45,000円/年
- 売電収入:3,500kWh × 8円 = 28,000円/年
- 合計経済効果:73,000円/年
次に、自家消費率を50%に高めた場合:
- 自家消費電力量:2,500kWh
- 売電電力量:2,500kWh
- 自家消費による電気代節約:2,500kWh × 30円 = 75,000円/年
- 売電収入:2,500kWh × 8円 = 20,000円/年
- 合計経済効果:95,000円/年
自家消費率を20%高めるだけで、年間22,000円もの経済効果の違いが生まれます。
卒FIT後こそ自家消費が重要
FIT期間中は、売電価格が高く設定されていたため(初期には1kWhあたり42円など)、自家消費よりも売電した方が経済的でした。しかし、卒FIT後は状況が一変します。
卒FIT後の売電価格は、大手電力会社で7〜9円/kWh程度となり、FIT期間中の1/4以下になってしまいます。一方で、電力会社から購入する電気料金は年々上昇傾向にあります。
このような状況では、発電した電力をできるだけ自家消費し、電力会社からの購入電力を減らすことが経済的に最も賢い選択となります。自家消費率を高めることは、卒FIT後の太陽光発電システムを最大限に活用するための重要なポイントなのです。
自家消費率を高める7つの方法
では、具体的にどのような方法で自家消費率を高めることができるのでしょうか。ここでは、比較的取り組みやすいものから設備投資が必要なものまで、7つの方法をご紹介します。
電気の使用時間を太陽光発電時間に合わせる
最も手軽に実践できる方法が、家電の使用タイミングを太陽光の発電時間帯に合わせることです。太陽光発電は基本的に日中(10時〜14時頃)に発電量が多くなります。この時間帯に電力消費の多い家電を使うようにすれば、自家消費率を高められます。
例えば、洗濯機、食洗機、掃除機といった電力消費の多い家電は、朝や夜ではなく日中に使うようにしましょう。最近の家電には「タイマー機能」が搭載されているものも多いので、これを活用して昼間に動作するようにセットしておくと良いでしょう。
また、冬場のエアコン暖房も日中に少し高めの温度設定にしておくことで、夜の暖房負荷を減らすことができます。夏場は朝のうちに冷房を効かせておくことで、日中の冷房効率が上がり、結果的に省エネにもつながります。
エコキュートを昼間運転に切り替える
エコキュートをお使いの家庭では、運転時間を夜間から昼間に変更するだけで、大幅に自家消費率を高めることができます。
通常、エコキュートは夜間の安い電気料金で動作するよう設定されていますが、太陽光発電を設置している家庭では、昼間の余剰電力を活用した方がお得です。特に卒FIT後は、夜間電力のメリットよりも太陽光の自家消費メリットの方が大きくなります。
最近のエコキュートでは「おひさまモード」や「ソーラーモード」といった機能が搭載されているものもあります。これらのモードを利用すれば、晴れた日に自動的に昼間に沸き上げを行ってくれます。中には天気予報と連動して、翌日の天気に応じて自動的に運転時間を調整するモデルもあります。
エコキュートの昼間運転により、年間で数万円の電気代削減効果が得られたという報告もあります。
家電の使い方を工夫する
家電の使い方を少し工夫するだけでも、自家消費率を高めることができます。
例えば、電子レンジや炊飯器、電気ケトルなどの調理家電は、朝や夜ではなく日中に使うようにしましょう。また、パソコンやタブレットの充電も日中に行うと良いでしょう。
冷蔵庫は1日中稼働していますが、開閉の頻度を減らしたり、効率的に食品を出し入れすることで、消費電力を抑えることができます。また、日中に冷蔵庫の温度設定を少し低くしておくことで、夜間の稼働を減らすことも可能です。
さらに、日中に家を空ける場合も、タイマー機能を活用して、帰宅する少し前に家電が動き始めるよう設定しておくと、日中の余剰電力を有効活用できます。
HEMSで電力使用状況を見える化する
HEMS(Home Energy Management System)を導入すると、家庭内の電力使用状況をリアルタイムで確認できるようになります。発電量と消費電力量を見える化することで、効率的な電力利用が可能になります。
HEMSがあれば、「今、どれくらい発電しているのか」「どの家電がどれくらい電力を消費しているのか」を一目で把握できるため、効率的な家電の使用タイミングを判断できます。また、過去の使用履歴も確認できるため、自家消費率を高めるための改善点も見つけやすくなります。
最新のHEMSでは、AIが電力使用パターンを学習し、自家消費率を高めるための提案をしてくれる機能を持つものもあります。また、スマートフォンアプリと連携し、外出先からでも家庭の電力状況を確認したり、家電を操作したりできるものもあります。
蓄電池を導入する
自家消費率を大幅に高める確実な方法として、蓄電池の導入が挙げられます。蓄電池があれば、日中の余剰電力を貯めておき、夜間や曇りの日に使用することができます。
例えば、5kWhの容量を持つ家庭用蓄電池があれば、平均的な家庭の夜間の電力需要をほぼカバーできるでしょう。これにより、自家消費率は70〜80%まで高めることも可能になります。
蓄電池のもう一つの大きなメリットは、停電時の非常用電源として使えることです。太陽光発電と蓄電池を組み合わせれば、数日間の停電にも対応できる電力を確保できます。
ただし、蓄電池の導入にはまとまった費用がかかります。家庭用蓄電池のコストは容量にもよりますが、工事費込みで100万円以上することが一般的です。補助金を活用することで負担を軽減できますが、それでも大きな投資となります。
蓄電池導入を検討する際は、自家消費率向上による経済効果と初期投資のバランスを見極めることが重要です。一般的には、卒FIT後の家庭や電気料金の高い地域では、蓄電池の導入メリットが大きくなります。
電気自動車(EV)を活用する
電気自動車(EV)のバッテリーは、家庭用蓄電池よりもはるかに大容量です。例えば、日産リーフのバッテリー容量は40kWh以上あり、家庭用蓄電池の数倍の容量があります。
V2H(Vehicle to Home)システムを導入すれば、EVのバッテリーに太陽光で発電した電力を充電し、夜間はEVから家庭に電力を供給することが可能になります。これにより、自家消費率を80〜90%まで高めることも不可能ではありません。
日中の余剰電力でEVを充電すれば、ガソリン代の節約にもなります。また、V2Hシステムは停電時の非常用電源としても機能します。EVのバッテリー容量は家庭用蓄電池よりも大きいため、より長期間の停電に対応できます。
ただし、V2Hシステムの導入コストは現状かなり高額です。機器本体と工事費を合わせると、200万円以上かかることも珍しくありません。また、EVの購入費用も考慮する必要があります。
EVの普及に伴い、V2Hシステムの価格も徐々に下がってきていますが、現時点では経済性だけを考えると導入のハードルは高いといえるでしょう。
太陽光パネルの設置方向を工夫する
新規に太陽光パネルを設置する場合や、既存のパネルを増設する場合は、設置方向を工夫することで自家消費率を高められます。
一般的に、太陽光パネルは真南向きに設置すると年間発電量が最大になります。しかし、自家消費率を高めたい場合は、電力需要のピークに合わせた設置方向を検討する価値があります。
例えば、朝の電力需要が多い家庭では東向きに、夕方の電力需要が多い家庭では西向きにパネルを設置することで、発電量のピークと消費電力のピークを合わせることができます。また、東西に分散して設置することで、朝から夕方まで安定した発電が可能になります。
もちろん、方角によって年間の総発電量は変わってきますが、自家消費率の向上という観点では、必ずしも南向きが最適とは限りません。家庭の電力消費パターンに合わせた設置方向を検討することが重要です。
自家消費率アップで得られる経済効果
では、自家消費率をアップすることで、具体的にどれくらいの経済効果が得られるのでしょうか。4kWの太陽光発電システムを例に試算してみましょう。
年間発電量を4,000kWhとし、電気料金を30円/kWh、卒FIT後の売電単価を8円/kWhとして計算します。
自家消費率30%の場合
- 自家消費電力量:1,200kWh
- 売電電力量:2,800kWh
- 自家消費による電気代節約:1,200kWh × 30円 = 36,000円/年
- 売電収入:2,800kWh × 8円 = 22,400円/年
- 合計経済効果:58,400円/年
自家消費率50%の場合
- 自家消費電力量:2,000kWh
- 売電電力量:2,000kWh
- 自家消費による電気代節約:2,000kWh × 30円 = 60,000円/年
- 売電収入:2,000kWh × 8円 = 16,000円/年
- 合計経済効果:76,000円/年
自家消費率70%の場合
- 自家消費電力量:2,800kWh
- 売電電力量:1,200kWh
- 自家消費による電気代節約:2,800kWh × 30円 = 84,000円/年
- 売電収入:1,200kWh × 8円 = 9,600円/年
- 合計経済効果:93,600円/年
自家消費率を30%から70%に高めることで、年間35,000円以上の経済効果の違いが生まれます。この金額は、蓄電池導入などの初期投資を回収する原資となります。
さらに、この試算は現在の電気料金を基にしていますが、今後も電気料金の上昇が予想されるため、自家消費率を高めることの経済的メリットはさらに大きくなる可能性があります。
自家消費率 | 自家消費電力量 | 売電電力量 | 自家消費による節約効果 | 売電収入 | 合計経済効果 |
---|---|---|---|---|---|
30% | 1,200kWh | 2,800kWh | 36,000円 | 22,400円 | 58,400円 |
50% | 2,000kWh | 2,000kWh | 60,000円 | 16,000円 | 76,000円 |
70% | 2,800kWh | 1,200kWh | 84,000円 | 9,600円 | 93,600円 |
FIT買取時 | 1,200kWh | 2,800kWh | 36,000円 | 59,200円 | 95,200円 |
自家消費型太陽光発電を支援する補助金
自家消費型太陽光発電や蓄電池の導入を検討する際は、国や自治体の補助金制度を活用することで初期費用を抑えることができます。
国レベルでは、環境省や経済産業省を中心に、自家消費型太陽光発電システムや蓄電池の導入に対する補助金制度が実施されています。
蓄電池に関しては、容量に応じた補助金が支給される場合が多く、1kWhあたり2〜5万円程度の補助が受けられるケースもあります。上限額は自治体によって異なりますが、20〜60万円程度が一般的です。
また、自治体レベルでも独自の補助金制度を設けているところが多くあります。例えば、東京都では太陽光発電システムと蓄電池のセット導入に対して最大100万円の補助を行っている例もあります。
特に注目すべきは、最近の補助金制度では「自家消費型」であることが条件になっていることが多い点です。例えば、発電量の50%以上を自家消費することを条件としている自治体もあります。これは、太陽光発電の普及とともに、地域内での電力の自給自足を促進したいという政策的な意図があります。
補助金制度は年度ごとに内容が変わることがあるため、導入を検討する際は最新の情報を確認することをおすすめします。また、補助金の申請には一定の条件や手続きが必要になるため、設備の販売施工業者に相談するのも良いでしょう。
まとめ:自家消費率を上げて太陽光発電を最大限活用しよう
太陽光発電の自家消費率を高めることは、卒FIT後の太陽光発電システムを最大限に活用するための重要なポイントです。売電価格が大幅に下がる卒FIT後は、いかに発電した電力を自宅で消費するかが経済的なメリットを左右します。
自家消費率を高める方法はライフスタイルの工夫から始まり、設備投資を伴うものまで様々です。家電の使用時間を調整する、エコキュートを昼間運転に切り替える、HEMSで電力使用状況を見える化するといった方法は、比較的手軽に始められます。より大きな効果を求めるなら、蓄電池の導入やEV・V2Hの活用も検討する価値があります。
自家消費率を30%から70%に高めることで、年間3万円以上の経済効果が得られる可能性があります。特に電気料金の上昇傾向を考慮すると、このメリットは今後さらに大きくなるでしょう。
また、国や自治体の補助金制度を活用することで、蓄電池などの設備導入にかかる初期費用を抑えることができます。最近の補助金制度では「自家消費型」であることが条件になっていることが多いため、これからの太陽光発電の主流が「売電」から「自家消費」へとシフトしていくことがうかがえます。
卒FITを迎えた、または今後迎える太陽光発電システムの所有者は、自家消費率を高めるための工夫を積極的に取り入れ、太陽光発電の恩恵を最大限に享受しましょう。それが、電気代の節約につながるだけでなく、災害時の電力確保や環境への貢献にもつながります。