
太陽光発電の固定価格買取制度(FIT)が終了した後、余剰電力の売電方法としては「市場連動型買取」と「固定価格買取」という2つの選択肢があります。
どちらを選ぶべきか迷っている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、それぞれの仕組みやメリット・デメリット、向いている人の特徴を詳しく解説します。卒FIT後の最適な選択のために、ぜひ参考にしてください。
太陽光発電の買取方式とは?
太陽光発電で作った電気は、自宅や事業所で使うだけでなく、電力会社に売ることができます。
固定価格買取制度(FIT)とは
固定価格買取制度(FIT)とは、再生可能エネルギーで発電した電気を国が定めた単価で一定期間、電力会社が買い取る制度です。
契約期間中は市場価格が変動しても同じ単価で買い取ってもらえるため、安定した収入が見込めます。
買取価格(売電価格)の決まり方
買取価格は、設備の種類や規模、設置年度によって異なり、国が毎年度設定します。
認定を受けた年度の単価が契約期間中に適用され、途中で変わることはありません。
買取期間(売電期間)
FITの買取期間は住宅用(10kW未満)が10年間、事業用(10kW以上)は20年間です。
FITの適用期間終了後は「卒FIT」となり、電力会社との自由契約に移行します。
買取方式(売電方式)の種類
買取方式(売電方式)には、余剰売電と全量売電の2種類があります。
余剰売電
余剰売電は、家庭や事業所で使用した後に残った電力(余剰電力)を売る方式です。
住宅用(10kW未満)では、FIT期間中も卒FIT後も原則として余剰売電となります。
一方、事業用では、以前は10kW以上であれば全量売電か余剰売電かを選択できましたが、現在では10kW以上50kW未満の設備に地域活用要件が課されています。
発電した電力の30%以上を太陽光パネル設置場所で消費するなどの要件があり、この要件を満たすには余剰売電が必須です。
全量売電
全量売電は、発電した電力をすべて売る方式です。
事業用の場合、50kW以上の設備では全量売電が可能で、発電量のすべてが収益になります。
また、FITではなく、市場価格に連動して変動する売電収入にプレミアムが加算される「FIP制度」を利用すれば、さらに収益向上が見込める可能性があります。
固定価格買取制度終了後の売電価格はどうなる?
固定価格買取制度(FIT)の期間が終了すると、売電価格は大きく下がるのが一般的です。
FIT期間中は、地元の大手電力会社が家庭の余剰電力を国の定めた単価で買い取る義務があり、その原資は電気料金とともに徴収される再生可能エネルギー発電促進賦課金によって賄われています。
FIT制度が始まった2012年度の住宅用(10kW未満)の買取価格は、1kWhあたり42円と高額でした。
その後は毎年度少しずつ引き下げられ、2024年は16円/kWh、2025年は15円/kWhとなっています。
この水準でも制度が始まった当初の42円と比べると低く感じられますが、卒FIT後はさらに下がり、8〜11円/kWh程度が相場です。
【参考】
資源エネルギー庁「過去の買取価格・期間等」「買取価格・期間等」
卒FIT後の選択肢
卒FIT後は売電価格が大幅に下がり、収入が減るケースが多くなります。
複数の選択肢の中から最適な方法を選びましょう。
これまで通り売電する
卒FIT後も、これまで契約していた電力会社に売電を続けることは可能です。
ただし、FIT期間中に比べると、買取価格は大幅に下がります。
主要な電力会社の基本プランの買取価格は以下のとおりです。
- 北海道電力:8.00円
- 東北電力:9.00円
- 東京電力:8.50円
- 中部電力:7.00円
- 北陸電力:8.00円
- 関西電力:8.00円
- 中国電力:7.15円
- 四国電力:7.00円
- 九州電力:7.00円
- 沖縄電力:7.70円
※2025年8月時点
現在と同じ電力会社に売電を続ければ、契約が自動で継続されるケースも多く、手軽に手続きできることがメリットです。
一方、買取価格が大きく下がることに注意が必要です。
新電力会社に売電する
卒FIT後は、売電先を自由に選べるため、新電力会社の中から高く買い取ってもらえる会社を探して売電する方法もあります。
電力の自由化により、さまざまな事業者が電力小売事業に参入しています。
新電力会社では、主要電力会社よりも高い買取価格が設定されていることが多く、多様なプランが提供されています。
相場は8〜11円/kWhほどで、条件付きでさらに買取価格が高いプランもあります。
新電力会社に売電する場合、固定価格買取と市場連動型買取から選べます。
固定価格買取
固定価格買取とは、契約期間中に買取価格が変わらない買取方式です。
契約期間は通常1年間で、電力会社によっては年度ごとに価格が見直されます。
買取価格が安定しているので、売電収入の見通しが立ちやすいことが魅力です。
市場連動型買取
市場連動型とは、買取価格が固定されておらず変動する点が最大の特徴です。
JEPX(日本卸電力取引所)の市場価格に合わせて買取単価が変動する方式です。
価格は季節や時間帯によって変わり、30分ごとに変わるJEPX(日本卸電力取引所)の市場価格に合わせて買取単価が変動します。
夏や冬の需要ピーク時は高値になりやすく、春や秋の需要が少ない時期は安値になる傾向です。
価格が高騰して売電収入が増えることもあれば、反対に安くなってしまうこともあり、この変動がメリットにもデメリットにもなります。
個人が直接JEPXの市場で取引することはできないため、「アグリゲーター」と呼ばれる仲介業者を通じて取引します。
アグリゲーターは複数の発電所の電力をまとめて市場で売り、その収益から手数料を差し引いた金額を支払います。
サービスによっては最低保証価格を設けている場合もあり、契約前に条件を確認することが大切です。
市場連動型買取が注目されている背景には、電力市場の自由化と卒FIT電力の増加があります。
電力会社は卒FIT後の太陽光電力を取り込むために、様々なプランを提供しており、その中でも市場価格に連動した柔軟な買取方式が選択肢の一つとなっています。
自家消費を増やす
卒FIT後は売電単価が下がるため、売るより自宅で使った方が節約効果が高くなります。
発電した電力をできるだけ自宅で使う「自家消費型」への移行も検討すべきです。
昼間に洗濯機や食洗機を使う、エアコンのタイマーを活用するなど、生活習慣を少し変えるだけでも自家消費率を上げることができます。
蓄電池を導入する
蓄電池を導入すれば、昼間の余剰電力を貯めて夜間や雨の日など発電できない時間帯に使用できます。
卒FIT後の売電価格より夜間の電気料金の方が高いため、経済的なメリットがあります。
さらに太陽光発電と蓄電池の組み合わせは停電時の備えにもなり、災害時にも電気を確保できます。
導入には初期費用がかかりますが、補助金を活用できる場合もあります。
市場連動型買取と固定価格買取の違い
市場連動型買取と固定価格買取の根本的な違いは、買取価格の決まり方にあります。
以下の表で主な違いを比較してみましょう。
比較項目 | 市場連動型買取 | 固定価格買取 |
価格の決まり方 | 電力市場の価格に連動して変動 | 契約期間中は一定価格で固定 |
価格変動リスク | あり(高値にも安値にもなる) | なし(価格は安定) |
収入の予測 | 難しい(変動が大きい) | 容易(固定価格×発電量) |
高収入の可能性 | あり(市場価格高騰時) | なし(契約単価以上にはならない) |
適している人 | リスクを取れる人・市場を理解している人 | 安定性重視の人・リスク回避志向の人 |
契約の複雑さ | やや複雑(手数料や条件の理解が必要) | シンプル(単価が明確) |
価格変動のしくみ
固定価格型の場合、契約期間中(通常1年間)は買取価格が変わりません。
例えば「9円/kWh」と決まれば、電力市場がどう変動しても常に9円で買い取ってもらえます。
電力会社によっては年度ごとに価格を見直す場合もありますが、契約期間中は変わりません。
一方、市場連動型は、JEPXの市場価格に応じて常に変動します。
例えば「市場価格の90%を還元」といった契約の場合、市場価格が20円/kWhであれば18円/kWhで買い取られ、5円/kWhに下がれば4.5円/kWhになります。
過去の実例を見ると、2022年から2023年にかけての冬期は電力需給の逼迫により市場価格が高騰し、市場連動型契約者は大きな収益を得られました。
一方で、太陽光発電が多く稼働する春の晴れた日の昼間などは、電力余剰で価格が大幅に下落することもあります。
収入の予測性
固定価格型は、予測が立てやすいのが大きな特徴です。
年間の発電量がおおよそ分かれば、「年間発電量×買取単価」で年間の売電収入が計算できます。
例えば年間3,000kWhの余剰電力があり、単価が8円/kWhなら、年間24,000円の収入が予測できます。
一方、市場連動型は市場価格の変動が大きいため、収入の予測が難しいことが特徴です。
電力需要や天候、国際情勢など様々な要因で価格が変動するため、月ごとの収入にばらつきが出ます。
ある月は固定価格より高く、別の月は大幅に下回るといった変動が生じます。
家計管理の観点からは、固定価格型の方が安定性があり計画が立てやすいと言えるでしょう。
一方、市場連動型は変動リスクを受け入れる代わりに、高収入の可能性を追求するスタイルです。
市場連動型のメリット
市場連動型買取には、固定価格買取にはない以下のようなメリットがあります。
売電収入が高くなる可能性がある
市場連動型買取の大きな魅力は、電力需給の状況によって売電単価が上がるチャンスがあることです。
特に冬や夏の電力需要ピーク時や、天候不順による太陽光・風力発電の出力低下時、大型発電所のトラブルなどによる供給力低下時、国際的なエネルギー価格高騰時などに市場価格が急騰します。
実際、2022〜2023年には一時的に30円/kWhを超える時間帯もあり、このとき市場連動型契約をしていれば、固定価格(7〜10円/kWh程度)の2〜3倍の収入を得られた計算になります。
丸紅新電力やLooopでんきなど、市場連動型プランを提供する新電力でも、高騰時の高収入事例が報告されています。
環境価値の反映
もう一つのメリットは、再生可能エネルギーの価値が市場で適切に評価される可能性がある点です。
電力需給が逼迫すると、環境価値の高い再生可能エネルギーの価値も上昇します。
今後、脱炭素化の進展に伴い、CO2排出量に応じたコストが電力価格に反映されるようになれば、太陽光などのクリーンエネルギーの価値はさらに上昇する可能性があります。
市場連動型は、そのような将来の環境価値の上昇を売電価格に反映できる柔軟な仕組みと言えるでしょう。
市場連動型のデメリット
メリットがある一方で、市場連動型買取には以下のようなデメリットもあります。
収入の不安定さ
最大のデメリットは、収入が不安定になりやすいことです。
春や秋のように電力需要が少ない時期や、天候が良く太陽光発電の出力が多い日の昼間、電力供給が豊富な状況では、市場価格が下がる傾向があります。
特に晴天時の昼間は、多くの太陽光発電所が一斉に発電するため、市場価格が下落しやすく、発電量が多いほど単価が下がる「カニバリゼーション(共食い)」と呼ばれる現象が起こりやすくなります。
極端なケースでは、市場価格がゼロ円近くまで下がる「ネガティブプライス」の時間帯もあり、その間に発電してもほとんど収入にならないことがあります。
契約条件の複雑さ
もう一つの注意点は、契約条件が複雑なことです。
固定価格型に比べて、手数料率(通常10〜20%程度)、最低保証価格や上限価格の有無、精算方法(月平均か30分値か)、契約期間や解約条件など、確認すべき項目が多くなります。
たとえば「市場価格の90%」と「市場価格の80%」では、長期的に見ると実質的な収入に大きな差が生じます。
こうした条件を正しく理解するには専門知識が必要な場合もあり、一般家庭にとってはややハードルが高いと感じられる場合もあります。
あなたに合う売電方法はどちら?
市場連動型と固定価格型、どちらが自分に適しているかを判断するためのポイントを紹介します。
固定価格型が向いている人
売電収入を安定させたい方や、家計計画の中で収入の予測性を重視する方には、固定価格型が向いています。
たとえば、売電収入を住宅ローンの返済に充てている場合や、電力市場の変動リスクをなるべく避けたい場合などに固定価格型が適しています。
また、電力市場の仕組みに詳しくない方や、価格変動を日々チェックする時間をかけたくない方にもおすすめです。
数年以内に蓄電池導入や設備更新を予定しているなど、短期的な視点で考える方にも、契約期間中は安定収入を得られる固定価格型が向いています。
何より、市場価格が変動しても、契約単価で安定的に買い取ってもらえる安心感が最大の魅力です。
市場連動型が向いている人
市場価格の変動を許容できる方や、高いリターンを狙いたい方には、市場連動型が向いています。
投資のような感覚で太陽光発電を運用し、収入は固定費ではなく臨時収入としてとらえられる方や、電力市場の仕組みや価格変動の要因を理解しており、定期的な価格チェックが苦にならない方に適しています。
蓄電池やHEMSの導入を検討している方や、EVと連携した運用をしたい方にも市場連動型は向いているでしょう。
市場連動型は投資に近い性質があり、変動リスクと引き換えに高いリターンの可能性を追求するスタイルといえます。
まとめ
市場連動型買取と固定価格買取、どちらが優れているというわけではなく、それぞれに特徴があるため、自分の状況や考え方に合わせて選ぶことが大切です。
卒FIT後の選択肢は、売電方法だけでなく自家消費の増加や蓄電池導入などを含めて総合的に考えることが重要です。
電力市場や各社のサービスは常に変化しているため、定期的に情報を更新し、必要に応じて契約を見直すことをおすすめします。
最終的には、ご自身のライフスタイルや経済状況、リスク許容度を考慮して最適な選択をしてください。
卒FITはゴールではなく新たなスタートです。これからも太陽光発電をより有効に活用していきましょう。