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太陽光発電の固定価格買取制度(FIT)が終了した後、余剰電力の売電方法として「市場連動型買取」と「固定価格買取」という2つの選択肢があります。どちらを選ぶべきか迷っている方も多いのではないでしょうか。この記事では、それぞれの仕組みやメリット・デメリット、向いている人の特徴を詳しく解説します。卒FIT後の最適な選択のために、ぜひ参考にしてください。

市場連動型買取とは?仕組みを簡単に解説

市場連動型買取とは、日本卸電力取引所(JEPX)の市場価格に連動して買取価格が変動する仕組みです。電力の需要と供給のバランスによって日々または30分ごとに取引価格が変わり、その価格を基準に余剰電力の買取価格が決まります。

JEPXは、電力会社や新電力、大口需要家などが電力を売買する市場です。ここでは30分ごとに電力の価格が決まり、需要が高く供給が少ない時間帯は価格が上昇し、逆に需要が少なく供給が多い時間帯は価格が下落します。

市場連動型買取が注目されている背景には、電力市場の自由化と卒FIT電力の増加があります。電力会社は卒FIT後の太陽光電力を取り込むために、様々なプランを提供しており、その中でも市場価格に連動した柔軟な買取方式が選択肢の一つとなっています。

市場連動型買取の特徴

市場連動型買取の最大の特徴は、買取価格が固定されておらず変動する点です。具体的には以下のような特徴があります。

価格変動の仕組み

  • 30分ごとに変わるJEPXの市場価格に連動
  • 季節や時間帯によって大きく価格が変わることがある
  • 夏や冬の電力需要ピーク時には高値になりやすい
  • 春や秋の電力需要が少ない時期は安値になる傾向

価格変動の実例 例えば2023年の冬期には電力需要のひっ迫により市場価格が1kWhあたり30円を超える時間帯もありました。一方で電力需要の少ない時期や太陽光発電が多く発電している昼間の時間帯には、価格が5円以下まで下がることもあります。

この価格変動が市場連動型買取の最大の特徴であり、メリットにもデメリットにもなり得ます。

市場連動型買取の仲介業者とは

個人の太陽光発電所オーナーが直接JEPXの市場で取引することはできません。そこで登場するのが「アグリゲーター」と呼ばれる仲介業者です。

アグリゲーターの役割

  • 複数の太陽光発電所から余剰電力を集める
  • まとめた電力をJEPXなどの市場で売買する
  • 市場価格から手数料を差し引いた金額を発電所オーナーに支払う

具体的なサービス例として「エネまかせ」などがあり、多数の家庭の余剰電力を取りまとめて市場で売電し、その収益から手数料(10〜20%程度)を引いた額を各家庭に分配する仕組みです。

この仲介手数料は会社によって異なるため、契約前に確認することが重要です。また、最低保証価格を設けているサービスもあれば、完全に市場価格に連動するサービスもあります。

固定価格買取との違いを比較

市場連動型と固定価格型の根本的な違いは、買取価格の決まり方にあります。以下の表で主な違いを比較してみましょう。

比較項目市場連動型買取固定価格買取
価格の決まり方電力市場の価格に連動して変動契約期間中は一定価格で固定
価格変動リスクあり(高値にも安値にもなる)なし(価格は安定)
収入の予測難しい(変動が大きい)容易(固定価格×発電量)
高収入の可能性あり(市場価格高騰時)なし(契約単価以上にはならない)
適している人リスクを取れる人・市場を理解している人安定性重視の人・リスク回避志向の人
契約の複雑さやや複雑(手数料や条件の理解が必要)シンプル(単価が明確)

それぞれの特徴をより詳しく見ていきましょう。

価格変動のしくみ

固定価格型は、契約期間中(通常1年間)は買取価格が変わりません。例えば「9円/kWh」と決まれば、電力市場がどう変動しても常に9円で買い取ってもらえます。電力会社によっては年度ごとに価格を見直す場合もありますが、契約期間中は変わりません。

市場連動型は、JEPXの市場価格に応じて常に変動します。例えば「市場価格の90%を還元」といった契約の場合、市場価格が20円/kWhであれば18円/kWhで買い取られ、5円/kWhに下がれば4.5円/kWhになります。

過去の実例を見ると、2022年から2023年にかけての冬期は電力需給の逼迫により市場価格が高騰し、市場連動型契約者は大きな収益を得られました。一方で、太陽光発電が多く稼働する春の晴れた日の昼間などは、電力余剰で価格が大幅に下落することもあります。

収入の予測性

固定価格型は、予測が立てやすいのが大きな特徴です。年間の発電量がおおよそ分かれば、「年間発電量×買取単価」で年間の売電収入が計算できます。例えば年間3,000kWhの余剰電力があり、単価が8円/kWhなら、年間24,000円の収入が予測できます。

市場連動型は、市場価格の変動が大きいため、収入の予測が難しくなります。電力需要や天候、国際情勢など様々な要因で価格が変動するため、月ごとの収入にばらつきが出ます。ある月は固定価格より高く、別の月は大幅に下回るといった変動が生じます。

家計管理の観点からは、固定価格型の方が安定性があり計画が立てやすいと言えるでしょう。一方、市場連動型は変動リスクを受け入れる代わりに、高収入の可能性を追求するスタイルです。

市場連動型買取のメリット

市場連動型買取には、固定価格買取にはない以下のようなメリットがあります。

高い売電収入の可能性

市場連動型買取の最大のメリットは、電力需給がひっ迫する時期に高い売電収入を得られる可能性があることです。

高収入が期待できる状況

  • 冬期や夏期の電力需要ピーク時
  • 天候不順で太陽光・風力発電の出力が低下している時
  • 大型発電所のトラブルなどで供給力が低下している時
  • 国際的なエネルギー価格高騰時

実際に2022年から2023年にかけては、燃料価格高騰や電力需給のひっ迫により、一時的に市場価格が30円/kWhを超える時間帯もありました。この時期に市場連動型契約をしていた場合、固定価格(通常7〜10円/kWh程度)の2〜3倍の収入を得られた計算になります。

丸紅新電力やLooopでんきなど、市場連動型プランを提供している新電力では、このような高騰時に高収入を得られた事例を報告しています。

環境価値の反映

市場連動型買取のもう一つのメリットは、再生可能エネルギーの価値が市場で適切に評価される可能性がある点です。

電力需給がひっ迫している状況では、環境価値の高い再生可能エネルギーの価値も上昇します。今後、脱炭素化が進み、CO2排出量に応じたコストが電力価格に反映されるようになると、太陽光などのクリーンエネルギーの価値はさらに高まる可能性があります。

市場連動型買取は、そのような将来の環境価値の上昇を売電価格に反映できる柔軟な仕組みと言えるでしょう。

市場連動型買取のデメリット

メリットがある一方で、市場連動型買取には以下のようなデメリットもあります。

収入の不安定さ

市場連動型買取の最大のデメリットは、収入が不安定になることです。

収入が減少するリスク

  • 電力需要が少ない春・秋の時期
  • 天候が良く太陽光発電の出力が多い日の昼間
  • 電力供給が豊富な状況
  • 景気後退などで電力需要が減少した場合

特に太陽光発電が最も発電する晴れた日の昼間は、多くの太陽光発電所が同時に発電するため、市場価格が下落しやすくなります。この「カニバリゼーション(共食い)」効果により、発電量が多い時ほど単価が下がるというジレンマが生じることがあります。

極端な例では、市場価格がゼロ円近くまで下落する「ネガティブプライス」の時間帯も発生しています。そのような時間に発電していても、ほとんど収入にならない可能性があります。

契約条件の複雑さ

市場連動型買取は、固定価格買取に比べて契約条件が複雑な傾向があります。

契約時に確認すべきポイント

  • 手数料率(通常10〜20%程度)
  • 最低保証価格の有無(市場価格が極端に下がった場合の保険)
  • 上限価格の有無(市場価格が高騰した場合の制限)
  • 精算方法(月平均か30分値か)
  • 契約期間と解約条件

特に手数料は会社によって異なるため、実質の買取価格に大きな差が出ることがあります。例えば「市場価格の90%」と「市場価格の80%」では、長期的に見ると大きな差になります。

また、契約内容を正確に理解するために専門知識が必要な場合もあり、一般家庭にとってはハードルが高いと感じることもあるでしょう。

あなたに合うのはどちら?選ぶポイント

市場連動型と固定価格型、どちらが自分に適しているかを判断するためのポイントを紹介します。

固定価格型が向いている人

以下のような方は、固定価格型買取を選ぶと良いでしょう。

安定志向の方

  • 毎月の売電収入を安定させたい方
  • 家計計画を立てる上で収入の予測性を重視する方
  • 売電収入を住宅ローンの返済などに充てている方
  • リスクをなるべく避けたい方

電力市場に詳しくない方

  • 電力市場の仕組みや価格変動に詳しくない方
  • 市場価格をチェックする時間や手間をかけたくない方
  • シンプルな契約を望む方

短期的な視点で考える方

  • 卒FIT後すぐに蓄電池の導入などを検討している方
  • 発電設備の更新を数年以内に予定している方

固定価格型は、何より「安心感」があることが最大のメリットです。市場がどう変動しても契約単価で買い取ってもらえるため、安定した収入を見込むことができます。

市場連動型が向いている人

一方、以下のような方は市場連動型買取にチャレンジしてみる価値があるでしょう。

リスクテイカーの方

  • 収入変動を許容できる方
  • 高いリターンを狙いたい方
  • 投資的な視点で太陽光発電を運用したい方
  • 固定費に充てるのではなく、臨時収入として考えられる方

電力市場に詳しい方

  • 電力市場の仕組みや価格変動要因を理解している方
  • 市場価格を定期的にチェックできる方
  • 電力需給の動向に関心がある方

設備連携を検討している方

  • 蓄電池の導入を検討している方(価格に応じた充放電制御)
  • HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)などの導入を検討している方
  • 電気自動車(EV)と連携した運用を考えている方

市場連動型は「投資」に近い性質があります。変動リスクを受け入れる代わりに、高いリターンの可能性を追求するスタイルと言えるでしょう。

卒FIT後の選択肢を考える

卒FIT後の選択肢は、市場連動型か固定価格型かの二択だけではありません。総合的な視点で最適な選択を考えましょう。

売電以外の選択肢

売電だけでなく、以下のような選択肢も検討する価値があります。

自家消費の増加 卒FIT後は売電価格が下がるため、発電した電力をできるだけ自宅で使う「自家消費型」への移行も検討すべきです。昼間に洗濯機や食洗機を使う、エアコンのタイマーを活用するなど、生活習慣を少し変えるだけでも自家消費率を上げることができます。

蓄電池の導入 蓄電池を導入すれば、昼間の余剰電力を貯めて夜間に使用できます。卒FIT後の売電価格(7〜10円/kWh)より夜間の電気料金(25〜30円/kWh程度)の方が高いため、経済的なメリットがあります。補助金も活用できる場合があります。

仮想蓄電サービスの利用 物理的な蓄電池を設置せずに、電力会社が提供する「仮想蓄電サービス」を利用する方法もあります。東京電力の「再エネお預かりプラン」や関西電力の「貯めトクサービス」などがこれに当たります。昼間の余剰電力を「預かり」、夜間の使用分と相殺する仕組みです。

契約内容の確認ポイント

どのような売電方法を選ぶにせよ、以下のポイントは必ず確認しましょう。

基本的な確認事項

  • 契約期間(通常1年間の自動更新が多い)
  • 解約条件(違約金の有無、解約通知の期限など)
  • 買取価格の見直し条件(固定価格型の場合)
  • 手数料率(市場連動型の場合)
  • 最低保証・上限価格の有無(市場連動型の場合)

その他のチェックポイント

  • 電力購入契約とのセット条件の有無
  • 売電収入の受取方法(現金振込か電気料金との相殺か)
  • 売電収入の支払いサイクル(月次か年次か)
  • 対応エリアの確認(地域限定のサービスもある)

特に注意したいのは「価格見直し条項」です。固定価格型でも多くの電力会社は「買取単価は年度ごとに見直す可能性がある」としています。例えば九州電力では現行7.00円/kWhですが、今後変更される可能性があると明記されています。

まとめ:自分に合った選択をするために

市場連動型買取と固定価格買取、どちらが優れているというわけではなく、それぞれに特徴があります。自分の状況や考え方に合わせて選ぶことが大切です。

市場連動型買取のポイント

  • 高収入の可能性がある反面、収入が不安定になるリスクも
  • 電力市場の動向に関心があり、変動リスクを許容できる人に向いている
  • 契約条件や手数料をよく確認することが重要

固定価格買取のポイント

  • 安定した収入が得られるが、市場高騰時の恩恵は受けられない
  • 収入の安定性を重視する人や、電力市場に詳しくない人に向いている
  • シンプルな契約だが、年度ごとの価格見直しの可能性はある

卒FIT後の選択肢は、売電方法だけでなく自家消費の増加や蓄電池導入などを含めて総合的に考えることが重要です。電力市場や各社のサービスは常に変化しているため、定期的に情報を更新し、必要に応じて契約を見直すことをおすすめします。

最終的には、ご自身のライフスタイルや経済状況、リスク許容度を考慮して最適な選択をしてください。卒FITはゴールではなく新たなスタートです。これからも太陽光発電をより有効に活用していきましょう。

 

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