
太陽光発電の売電価格は年々下がっており、FIT制度(固定価格買取制度)の買取期間が終了する「卒FIT」を迎えた方や、これから迎える方の間では、不安や疑問の声が増えています。
「今の売電価格はどのくらいなのか」「卒FIT後はどうすればいいのか」「できるだけ損をせずに電気を売りたい」といった悩みを抱える方は、制度の仕組みや価格の変化を正しく理解することが大切です。
また、これから太陽光発電を導入しようと考えている方も、「今から導入して本当にメリットがあるのか」「何に注意したらいいのか」など、さまざまな疑問を持っていることでしょう。
本記事では、FIT制度の概要から買取価格の推移、卒FIT後の売電事情、さらに新規導入を検討する際のポイントまで、初心者にもわかりやすく解説します。
これからの太陽光発電の活用に向けて、ぜひお役立てください。
FIT制度とは?
固定価格買取制度(FIT)は、再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が国の定めた価格で一定期間買い取ることを義務付ける制度です。
太陽光・風力・水力・地熱・バイオマス発電が対象となっています。
FIT制度により太陽光発電を導入した人は将来の収入を予測しやすく、初期投資の回収見通しが立てやすくなります。
買い取りにかかる費用は、私たち電気利用者全体から集められる「再エネ賦課金」で賄われており、毎月の電気料金に上乗せされる形で徴収されています。
太陽光発電の買取期間は、住宅用(10kW未満)では10年間、事業用(10kW以上)では20年間と定められています。
FIT制度が生まれた背景
FIT制度が導入された最大の背景は、2011年の東日本大震災と原発事故でした。
日本のエネルギー政策の見直しが急務となる中、再生可能エネルギーの導入を加速させる必要がありました。
当時の日本のエネルギー自給率はわずか8%程度と先進国の中でも最低水準であり、資源の乏しい日本にとってエネルギー安全保障の観点からも再エネ普及は重要課題でした。
加えて、原発依存度の低減や脱炭素社会の実現に向けた国際的な要請も高まっていました。
こうした背景から、2012年7月に現行のFIT制度が本格スタートし、特に太陽光発電の導入が急速に進むことになりました。
FIT買取価格の年度別推移
FIT制度が始まった2012年度から現在までの買取価格は、年々引き下げられてきました。以下に太陽光発電の買取価格推移を示します。
年度 | 住宅用(10kW未満) | 事業用(10kW以上) |
2012年 | 42円/kWh | 40円/kWh |
2013年 | 38円/kWh | 36円/kWh |
2014年 | 37円/kWh | 32円/kWh |
2015年 | 33-35円/kWh | 27-29円/kWh |
2016年 | 31円/kWh | 24円/kWh |
2017年 | 28円/kWh | 21円/kWh |
2018年 | 26円/kWh | 18円/kWh |
2019年 | 24円/kWh | 14円/kWh |
2020年 | 21円/kWh | 入札制/13円/kWh |
2021年 | 19円/kWh | 入札制/12円/kWh |
2022年 | 17円/kWh | 入札制/11円/kWh |
2023年 | 16円/kWh | 入札制/10円/kWh |
2024年 | 15円/kWh | 入札制/8-10円/kWh |
※価格は税込表示。事業用の一部は入札制に移行
FIT制度開始当初の2012年、住宅用太陽光の買取価格は42円/kWhと非常に高く設定されていました。これは太陽光発電設備の普及を加速させるための政策的判断でした。
一方で事業用太陽光は40円/kWhでスタートし、大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設ラッシュを引き起こしました。
しかし、その後は毎年のように価格が引き下げられ、2024年現在では住宅用が15円/kWh、事業用の多くは入札制に移行し、相場は8~10円/kWh程度にまで下がっています。
特に2015年以降は価格下落のペースが加速し、住宅用でも半額以下になりました。
買取価格が下がり続けた理由
買取価格が毎年引き下げられてきた主な理由は以下の3点です。
- 太陽光パネルなど設備コストの低下:量産効果や技術革新により、発電設備の価格は大幅に下がりました。
- 国民負担の抑制:再エネ賦課金が電気料金に占める割合が増加し、家計や企業の負担が増大したため、適正化が図られました。
- 市場原理の導入:初期の高い買取価格から段階的に市場競争を促す価格設定へと移行しています。
経済産業省は毎年、調達価格等算定委員会の意見を踏まえて買取価格を決定していますが、基本的には「コスト効率的な再エネ導入」を目指して価格設定を行っています。
【2025年最新】これからFIT買取価格はどう変わる?
2025年10月から、太陽光発電の売電価格(FIT買取価格)が大きく変わります。
特に10kW未満の住宅用太陽光発電では、「導入初期に高めの売電単価を設定する」という新しい方式が導入されることになりました。
具体的には、2025年10月以降に認定された住宅用(10kW未満)の太陽光発電では、最初の4年間は1kWhあたり24円で電気を売ることができます。
その後の6年間は8.3円に下がりますが、全体の売電期間はこれまでと同様、10年間です。
この変更の背景には、太陽光発電の導入をさらに促進したいという国の方針があります。
住宅への設置件数は減少傾向にある一方で、システム費用や維持管理コストの大幅な低下は見られていません。
そのため、導入時の投資を少しでも早く回収できるよう、最初の数年間だけ高めの売電単価が適用される仕組みに変更されたのです。
この新しい制度は、売電価格が徐々に下がっている中でも、初期費用を回収しやすくすることを目的としています。
たとえば、導入直後の売電収入が増えれば、設置費用の負担感を軽減することにつながります。
2026年度もこの価格設定が継続される見通しであり、住宅用の太陽光発電を検討している人にとっては、今後の計画に影響を与える大きなポイントになります。
これから太陽光発電を導入する場合は、購入タイミングや費用回収の見通しに直結するため、この新しい売電価格の仕組みをしっかり理解しておくことが大切です。
卒FITとは?
「卒FIT」とは、FIT制度で定められた買取期間(住宅用太陽光の場合は10年間)が満了した状態を指す言葉です。
2012年に制度が始まったため、2022年以降は卒FITを迎える住宅が急増しています。
卒FIT後は、それまでの固定価格での買取が終了するため、発電した電気の扱いを自分で選択する必要があります。主な選択肢は以下の2つです。
- 売電を継続する:地域電力会社や新電力の「卒FIT買取プラン」に契約を切り替える
- 自家消費を増やす:蓄電池の導入などで発電した電気を自宅でより多く使う
多くの太陽光発電オーナーにとって最大の懸念点は、FIT期間中と比べて売電収入が大幅に減少することです。
例えば2012年に設置した住宅用太陽光(42円/kWh)が卒FITを迎えると、売電単価は約8~12円/kWhへと70~80%も下落します。
卒FIT後の買取価格の実態
卒FIT後の買取価格は電力会社やプランによって異なりますが、おおむね以下の水準となっています。
- 地域電力会社(東京電力、関西電力など):7~9円/kWh程度
- 新電力各社の標準プラン:8~11円/kWh程度
- 条件付き高額買取プラン:10~14円/kWh程度(蓄電池購入や電気契約などの条件あり)
現在の市場では、「エネまかせ」「ENEOS電力」「東京ガス」などが比較的高い買取価格を提示していますが、それでもFIT期間中の価格と比べると大幅に低い水準です。
この価格差は売電収入に直結します。
例えば年間3,000kWhの余剰電力を売電していた場合、42円/kWhなら年間12.6万円の収入でしたが、9円/kWhでは2.7万円と約10万円も減少してしまいます。
卒FIT後の対応策
卒FITを迎えた、あるいは迎える予定の太陽光発電オーナーには、主に以下の対応策があります。
それぞれにメリット・デメリットがありますので、ご自身の状況に合わせて検討しましょう。
1. 売電を継続する
- 特別な設備投資なしで余剰電力を売ることができる
- 買取価格が低いため収入は大幅に減少する
- 電力会社やプランによって買取価格に差がある
2. 蓄電池を導入して自家消費を増やす
- 昼間発電した電気を夜間にも使えるため電気代節約効果が高まる
- 災害時の非常用電源として活用できる
- 蓄電池導入には数十万~数百万円の初期投資が必要
3. 電気自動車(EV)と連携する
- EVを「走る蓄電池」として活用できる
- EV充電用の電気代を削減できる
- V2H(Vehicle to Home)システムの導入費用がかかる
4. PPAサービスの活用
- 初期費用なしで、第三者が設置した太陽光設備の電気を購入できる
- 設備の管理やメンテナンスの負担が軽減される
- 導入できる地域や条件が限られる場合がある
売電を継続する場合:売電先の選び方
卒FIT後も売電を続ける場合は、以下のポイントに注目して電力会社・プランを選びましょう。
- 買取単価の比較:各社の買取価格を比較し、できるだけ高い単価で買い取ってくれる会社を選ぶ
- 契約条件の確認:最低契約期間や解約違約金などの条件を確認する
- 併用プランの検討:電気の契約や蓄電池購入などとセットにすると高い買取価格が適用される場合がある
- 手続きの簡便さ:申込方法や切替時の工事の有無なども重要な検討要素
多くの電力会社では卒FIT向けのプランを用意していますので、複数社から見積もりを取って比較検討することをおすすめします。
蓄電池で自家消費を増やす方法
蓄電池の導入は、卒FIT後の有力な選択肢の一つです。蓄電池のメリットは以下の通りです。
- 電気代の削減効果:昼間の余剰電力を蓄電し、夕方以降に使うことで電気の購入量を減らせる
- 売電収入の減少を補える:電気代削減額と売電収入減少額を比較して経済性を判断
- 停電時の非常用電源:災害時などの停電時にも電気を使える安心感
蓄電池選びのポイントは、容量(kWh)とコストです。
一般的な家庭用蓄電池は5~10kWh程度の容量が多く、価格は工事費込みで100万円前後からとなります。
また、蓄電池には国や自治体の補助金制度が適用される場合がありますので、導入を検討する際は最新の補助金情報も確認しましょう。
これから太陽光発電を導入する場合のポイント
太陽光発電の導入を検討している方にとって、設置前の準備や選択肢を知っておくことは非常に重要です。
本章では、太陽光発電をこれから導入する方が注意すべきポイントを紹介します。
補助金を活用する
太陽光発電の導入にかかる費用を抑える方法として、補助金の活用が有効です。
初期費用の負担がネックになり導入を迷っている方にとって、補助金は設置の後押しになります。
特に個人の住宅で設置する場合、売電収入や電気代の削減によって、長期的には費用を回収できる可能性がありますが、初期費用を少なくすれば、その分だけ早く費用回収を達成しやすくなります。
現在、国の補助金制度では、太陽光発電の単体設置に対する補助は限定的です。
しかし、蓄電池とセットで導入することで補助対象となるケースも見られます。
また、多くの自治体では住宅向けの太陽光発電に対して独自の補助制度を用意しており、単体設置でも支援が受けられる可能性があります。
導入を検討する際は、お住まいの地域の自治体ホームページを確認し、利用できる補助制度があるかどうかを調べてみてください。
耐久性の高い太陽光パネルを選ぶ
長く安心して太陽光発電を使い続けたいなら、耐久性の高いパネルを選ぶことが重要です。
太陽光発電は、一度設置すれば10年〜20年以上にわたって使い続けることになります。
売電だけでなく、自宅で使う電気をまかなう「自家消費」が増えている今、30年近く活用する家庭も珍しくありません。
ところが、パネルの寿命が短かったり、劣化が早かったりすると、発電量が年々下がり、十分な効果が得られない可能性があります。
結果として、期待していたほどの節約や収益につながらないというケースも出てきます。
だからこそ、信頼できるメーカーの実績や保証内容を確認し、長期間にわたって安定して発電できるパネルを選ぶことが大切です。
設置してから後悔しないためにも、耐久性という視点を忘れずに持っておきましょう。
定期的にメンテナンスを行う
太陽光発電の性能を維持するには、定期的なメンテナンスが欠かせません。
設置したばかりのときは順調に発電していても、年月が経つとパネルの汚れや部品の劣化などで発電量が少しずつ下がっていきます。
汚れたまま放置すれば、日光を効率よく取り込めず、売電収入や電気代の節約効果が下がる原因になります。
そこで重要になるのが、定期的に点検や清掃を行うことです。
日々の点検、清掃に加えて、数年ごとに業者による専門的なチェックを行えば、トラブルを未然に防ぎ、設備を長持ちさせることができます。
長期的に安定した発電を続けるためには、「設置して終わり」ではなく、こまめなメンテナンスを習慣にすることが大切です。
適切な場所に設置する
太陽光パネルの発電効率を最大限に高めるには、日当たりの良い場所に設置することが重要です。
特に、屋根や地上に影を落とす樹木や隣接建物があると、パネルに光が当たらず、発電量が大きく下がることがあります。
太陽光発電は光があたる時間と強さに左右されるため、年間を通じて安定して日照が確保できる場所を選ぶことが基本です。
また、パネルの角度や向きによっても発電量は変わります。たとえば南向きで角度が20~30度程度になるよう設置すると、多くの地域で効率よく発電できます。
さらに、積雪や台風などの自然条件も考慮して、安全に設置・維持できるかどうかを確認することも大切です。
導入前には、専門業者にシミュレーションや現地調査を依頼することで、最適な設置場所を見極めることができます。
【事業者向け】FIT制度の今後と最新動向
太陽光発電で電気を売る仕組みは、ここ数年で少しずつ変わってきています。
売電を継続する場合は、新しい制度の特徴を知っておくことが大切です。
新たな買取制度「FIP」について
太陽光発電で売電収入を得るには、これまで「FIT制度(固定価格買取制度)」が主に使われてきました。
しかし最近では、より柔軟に収益を伸ばせる「FIP制度(フィードインプレミアム)」が注目されています。
FIP制度では、電気の市場価格に応じた売電収入に、プレミアム(補助金)が上乗せされる仕組みです。
価格は月ごとに見直されるため、需要が高い時期にはより多くの収益を得られる可能性があります。
ただし、FIP制度を使うには発電量の計画と実績を一致させる必要があり、ずれが生じると「バランシングコスト」と呼ばれる負担が発生します。
このため、ある程度の知識や対応力が求められます。
2025年現在、50kW未満の発電所はFIT制度のままですが、50kW以上の設備ではFIP制度を選べます。
また、1,000kW以上の大規模設備にはFIP制度の利用が義務づけられています。
安定収入を重視するならFIT制度、収益の最大化を目指すならFIP制度の活用を検討するのがよいでしょう。
事業の規模や目的に合わせて、制度を使い分けることがこれからは重要になります。
まとめ:FIT買取価格と賢い選択
この記事では、FIT制度(固定価格買取制度)の基本的な仕組みから、これまでの買取価格の推移、卒FIT後の対応策について詳しく解説しました。
また、これから太陽光発電を導入しようと考えている方が知っておくべきポイントもご紹介しました。
太陽光発電を運用する上で大切なのは、ご自身のライフスタイルや電気の使用状況に合わせて、最適な選択をすることです。
売電を続けるのか、それとも蓄電池を導入して自家消費を増やすのか、はたまた電気自動車(EV)と連携させるのか、さまざまな選択肢があります。
どの方法を選ぶにしても、それぞれのメリットとデメリットを理解し、ご自身にとって一番良い方法を見つけることが重要です。
太陽光発電は、上手に活用すれば家計の節約だけでなく、環境にも優しい暮らしを実現できる素晴らしい手段です。
この記事で解説した情報を参考に、ご自身の状況に合わせた最適な方法を選び、太陽光発電を賢く活用して、より豊かで安心できる毎日を送りましょう。