
太陽光発電を設置してから10年が経過し、固定価格での売電が終了する「卒FIT」を迎える家庭が増えています。
今まで通りに売電を続けられないことを知り、何から始めれば良いか迷っている方も多いのではないでしょうか。
「売電をやめたら損になるのでは?」、「新しい電力会社との契約って難しそう…」そんな不安を感じながら、売電の切り替えについて調べている方もいると思います。
この記事では、卒FITの基本から、売電の切替方法、手続きの流れ、お得な電力会社の選び方までをわかりやすく解説します。
今後の電力活用で損をしないために、必要な情報をひとつずつ丁寧に整理していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
卒FITとは?
卒FITとは、「固定価格買取制度(FIT制度)」による売電期間が終了することを意味します。
この制度は、太陽光発電などの再生可能エネルギーで作った電気を、国が決めた価格で電力会社が買い取る仕組みです。
なぜこの制度が重要だったかというと、再生可能エネルギーの普及を後押しし、一般家庭でも太陽光発電の導入が進んだからです。
FIT制度には、10年間という買取期間が設定されており、その期間が終わると「卒FIT」となります。
たとえば、2012年に太陽光発電を始めた家庭では、2022年に卒FITを迎えます。
卒FIT後は、電気を高値で買い取ってもらうことができなくなり、新たに太陽光発電の運用方法を考える必要があります。
卒FIT後の3つの選択肢
FIT制度の買取期間が終わった後も、太陽光発電を上手に活用する方法はあります。
自分のライフスタイルに合った方法を選ぶことが、損をしないポイントです。
今まで通り売電を続ける
卒FIT後も、これまでと同じ電力会社に売電を続けることができます。
特別な手続きが必要ないケースが多く、安心して継続できる選択肢です。
たとえば、東京電力は「再エネ買取標準プラン」として、FIT終了後の家庭向けに1kWhあたり8.5円で電気を買い取っています。
新しい契約手続きをせずに売電を続けたい人や、大手企業の信頼性を重視したい人にとっては、この選択が向いています。
ただし、買取価格はFIT期間中より大きく下がるため、他の選択肢と比較してみることも大切です。
蓄電池を導入して自家消費を増やす
発電した電気を売るのではなく、家庭で効率よく使うことで、電気代を削減できます。
そのために有効なのが、蓄電池の導入です。
卒FIT後は売電価格が下がるため、発電した電気を電力会社に売るよりも、自宅で使ったほうが経済的に得になるケースがあります。
たとえば、昼間に発電した電気を蓄電池にためておき、夜間に使えば、電力会社から高い電気を買う必要がなくなります。
また、災害時などの停電対策としても活用できるため、防災意識の高い家庭にも適しています。
一方で、蓄電池の初期費用が高いため、導入にあたっては費用対効果をよく検討することが必要です。
売電先の電力会社を見直す
売電先を大手電力会社から新電力に切り替えることで、より高い買取価格を得られる可能性があります。
売電収入を少しでも増やしたい人にとって、有力な選択肢です。
この方法が注目されている理由は、大手電力会社よりも買取価格が高いプランを提示している新電力が多いからです。
たとえば、大手では1kWhあたり7〜8円台での買取が多いのに対し、新電力では10円前後で買い取るプランも見られます。
「できるだけ高く売りたい」と考えている家庭にとっては、新電力への切り替えを検討する価値があります。
電力会社の変更には契約手続きが必要ですが、多くの会社ではWebから簡単に申し込みができます。
卒FIT後に売電先を変更できる?自由に選べる?
前の章で、選択肢の一つとして、売電先の電力会社を見直すという方法を紹介しました。
しかし、「本当に売電先を自由に変えられるの?」と疑問に思った人もいるかもしれません。
結論から言うと、卒FIT後は売電先の変更が可能です。
ほとんどの家庭では、契約していた電力会社以外にも自由に売電できます。
このように選べるようになったのは、2016年に実施された電力自由化による制度の変化が背景にあります。
以前は、東京電力や関西電力などの地域ごとの大手電力会社しか、家庭向けに電気を販売・買い取ることができませんでした。
しかし電力自由化により、家庭の電気を「誰に売るか」も自由に選べるようになりました。
また、一度新電力に変更したあとで、大手電力会社に戻すことも可能です。
その場合は以前の買取価格がそのまま適用されるのではなく、再契約としてその時点の価格で売ることになるので注意が必要です。
このように、卒FIT後の売電先は自分で選ぶことができます。
買取価格の高い会社や、契約条件が自分に合った会社を選ぶことで、太陽光発電のメリットをより長く活かすことができます。
卒FIT後の売電先はどこがお得?大手電力会社と新電力の違い
卒FIT後は、どこに売電するのが一番得なのでしょうか。
大手電力会社の買取価格は一般的に1kWhあたり7~9円程度です。
例えば東京電力では8.5円/kWh、九州電力では7.0円/kWhという水準です。これはFIT期間中(10年前に契約した場合で42円/kWh程度)に比べると大幅に下がります。
一方、新電力各社(電力自由化以降に参入した電力会社)は、もっと高い価格を提示することが多く、10~13円/kWhの買取単価を提示する会社もあります。
中には期間限定で16円/kWhという高値を提示した例もあります。
大手電力会社のメリット・デメリット
メリット
- 手続きが簡単: FIT期間中の契約から自動的に切り替わることが多く、新たな申込手続きが不要
- 安心感: 長年の実績がある大手企業なので、倒産リスクや急な契約変更の心配が少ない
デメリット
- 買取価格が低め: 新電力に比べて買取単価が1~4円程度低いことが多い
- 付加サービスが少ない: 単純に買い取るだけのプランが中心で特典が限られる
新電力会社のメリット・デメリット
メリット
- 買取価格が高め: 大手電力より1~4円程度高い場合が多く、売電収入アップが期待できる
- 多様な特典: 電気料金プランとのセット割引や、ポイント還元など付加価値サービスが充実
デメリット
- 契約条件の確認が必要: 自社の電力購入契約とセットが条件のプランもある
- 将来的な価格変更リスク: 買取価格が将来下がる可能性や、事業継続性の不安がある
代表的な新電力会社の買取プラン比較
卒FIT後の余剰電力を買い取っている新電力会社は数多くありますが、その買取価格やサービス内容は各社で異なります。代表的な会社のプランを見てみましょう。
丸紅新電力(大手商社系)
東電エリアで11~13.5円/kWhという高い買取価格を提示しています。電気購入契約なしでも売電契約のみOKで、契約手数料や工事費も無料という手軽さが特徴です。
伊藤忠エネクス(大手商社系)
期間限定キャンペーンで最大16円/kWhという高値を提示した実績があります。ただし通常時は9~10円台に戻ることが多いです。
出光興産(石油元売系)
「idemitsuでんき」のスタンダードプランで9.5円/kWh、自社と電力購入契約をセットにすると11.5円/kWhに上乗せされる特別プランもあります。
ENEOSでんき(石油元売系)
卒FIT向けの「余剰電力買取サービス」を提供。最大の特徴は売電契約のみで加入可能な点です。首都圏では10~11円/kWhという報告例があります。
大阪ガス(都市ガス大手)
関西エリア中心に、基本買取単価約8円/kWh+自社電気セット契約で+1円という「電気セットプラン」を提供しています。
新電力会社の比較ポイントと選び方のコツ
卒FIT後に売電先を選ぶ際は、単純に買取価格だけで決めてしまうのではなく、いくつかのポイントを比較することが大切です。
本章では5つのポイントを紹介します。
電力買取だけでなく電気代もチェック
売電価格が高い新電力会社を選ぶのは大切ですが、それに加えて「電気代」がどれくらいになるかも確認しておくといいでしょう。
昼間に太陽光で発電しても、夜間や雨天時には外部から電気を購入する必要が出てくる可能性があります。
その際に電気料金が割高だと、売電による収入よりも支出の方が上回ってしまう可能性があります。
電力会社によっては、売電契約と電力購入契約をセットにすることで、電気代が安くなるプランを提供している場合もあります。
こうした「トータルの損得」を意識することが、失敗しない選び方につながります。
セット割や特典の有無
新電力会社を選ぶときは、売電単価のほかに、さまざまな「セット割」や「特典」にも注目しましょう。
これらのサービスをうまく利用すれば、売電収入だけでなく、総合的なお得感を高めることができます。
たとえば、家族のスマホ料金やガス料金、インターネット契約といった他のサービスと電気料金をまとめて割引が受けられるケースがあります。
こうした「複数サービスのセット割」を提供する会社も増えており、電気代の節約やポイント還元が受けられるため、家計全体で見てお得になることが多いです。
また、一定期間の契約継続で特典がもらえたり、紹介キャンペーンでポイントがもらえるなど、契約時の特典も各社で異なります。
こうしたサービスは売電単価には直接関係しませんが、実質的な節約や収入アップにつながるため、契約前に確認しておくと良いでしょう。
利用エリアの対応可否
新電力会社によっては、利用できる地域が限られている場合があります。
そのため、まずは自分の住んでいるエリアで契約が可能かどうかを確認しましょう。
たとえば、都市部ではほとんどの新電力会社が対応していますが、離島や一部の地方では対応していないこともあります。
契約できないと意味がないため、利用エリアの対応状況は最初にチェックする重要なポイントです。
公式サイトや資源エネルギー庁の一覧で、エリア対応の可否を簡単に調べられます。
深夜電力料金や時間帯別単価
電気料金は、使う時間帯によって単価が変わることがあります。
特に深夜や早朝など、電力需要が低い時間帯は料金が安くなる場合が多いです。
こうした「時間帯別単価」が設定されているプランを選べば、生活スタイルに合わせて電気代を節約しやすくなります。
たとえば、夜間に電気を多く使う家庭では、深夜料金が安いプランを利用することで電気代を抑えられます。
逆に、昼間に電気を多く使う場合は、時間帯による単価差を考慮してプランを選ぶことがポイントです。
自分の生活リズムに合った料金プランを選ぶことで、無駄な出費を減らせます。
支払い方法やカスタマーサポートの充実度
電力会社を選ぶ際は、支払い方法の種類やカスタマーサポートの対応状況も確認しましょう。
たとえば、クレジットカード払い、口座振替、コンビニ払い、電子決済など、支払い方法が多様だと、自分に合ったものを選択できて、便利です。
また、問い合わせ窓口の対応時間や電話・メール・チャットなどのサポート手段が充実しているかも重要です。
困ったときにすぐ相談できる会社を選べば、安心して契約を続けられます。
支払いのしやすさやサポート体制は、長く契約するうえで見落とせないポイントです。
卒FIT後の売電プラン種類と特徴
卒FIT後の売電プランには、大きく分けて「固定価格型」と「市場連動型」の2種類があります。
それぞれの特徴を理解して、自分に合ったプランを選びましょう。
固定価格型プランは、契約期間中は買取単価が一定に固定されるプランです。例えば「10円/kWh」と決められ、市場変動に関係なくその価格で買い取られます。
- メリット:収入の見通しが立てやすい、家計計画を立てやすい
- デメリット:市場価格が上昇しても契約単価は上がらない
市場連動型プランは、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格など市場価格に連動して買取単価が変動するプランです。
- メリット:市場価格高騰時に収入が増える可能性がある
- デメリット:価格変動リスクがあり、収入が不安定になる可能性がある
電力市場の動きをあまり気にせず、安定した収入を希望する方には固定価格型がおすすめです。
特に高齢世帯や、毎月の売電収入を生活費に組み込んでいる方に向いています。
一方、電力市場の動向に関心があり、収入変動を許容できる方には市場連動型も検討の余地があります。
特に最近のような電力価格不安定な時期には、高騰時の収入アップを狙えるチャンスもあります。
契約時には、市場連動型の場合は手数料や最低保証の有無、固定価格型の場合は価格見直し条項の有無など、細かい条件も確認することが大切です。
売電先変更の流れと手続き方法
卒FIT後の売電先変更手続きは、思ったよりも簡単です。
基本的な流れを解説します。
FIT満了通知の確認
FIT買取期間が終了する約4~6か月前になると、「買取期間満了のお知らせ」が郵送されます。
この通知にはFIT終了日や今後の選択肢に関する案内が記載されているので、しっかり確認しましょう。
売電先(買取事業者)の決定
新たに契約したい売電先の電力会社を選びます。価格やサービス内容を比較し、自宅のエリアで利用可能なプランを絞り込みましょう。
必要情報・書類の準備
手続きには「受給地点特定番号」(22桁の番号)やお客様番号が必要です。
検針票や買取満了通知書を用意しましょう。
また本人確認書類や銀行口座情報なども求められる場合があります。
新しい売電先へ申し込み
選んだ電力会社の指定する方法(多くは公式サイト上の専用フォームや電話)で申し込みます。
必要情報を入力・送信すれば完了です。
現在の契約先への解約連絡は基本的に不要です。新しい電力会社が手続きを代行してくれます。
切り替え手続きの完了と売電開始
申込後、約1か月程度で切り替えが完了します。
完了すると新電力から契約内容書面や開始日の案内が届きます。
その後は新しい契約に基づいて売電収入が入金されます。
FIT満了日までに余裕を持って(1~2か月前までには)申し込むことをおすすめします。
手続きが間に合わないと、一時的に売電収入がゼロになる可能性もあります。
また、手続きは基本的にオンラインで完結することが多いですが、一部のケースでは郵送書類の提出が必要になることもあります。
不明点があれば各社のカスタマーサポートに問い合わせましょう。
よくある質問(Q&A)
本章では、よくある質問をまとめました。
Q. 売電先を変更した場合、工事は必要?
A. 売電先を変更しても基本的に工事は必要ありません。
売電先や電気の購入先を変えても、太陽光発電の設備や家の電気配線には変更がないため、そのまま使い続けられます。
特別な機器の交換や工事が求められることはほとんどありません。
ただし、電力メーターの切り替えや検針方式の変更が必要になるケースでは、作業が入る可能性があります。
この作業も大がかりなものではなく、多くの場合は立ち会い不要で完了します。
Q. 売電先変更後に起こったトラブルの対応はどこに任せる?
A. 新たに契約した電力会社がトラブル対応の窓口になります。
電気が急に使えなくなった場合や、メーター・ブレーカーに不具合が起きた場合は、まず契約中の電力会社に連絡してください。
その電力会社が、送配電事業者と連携して復旧などの対応を行います。
ただし、発電設備自体に原因があるトラブル、たとえば太陽光パネルやパワーコンディショナーの故障などは、電力会社では対応できません。
その場合は、太陽光発電を設置した業者や販売会社に連絡する必要があります。
契約先がどこに対応の範囲を持っているのか、事前に確認しておくと安心です。
Q. 卒FIT後何もしないとどうなる?
A. 何の手続きもせずに卒FITを迎えた場合、売電の扱いは自動的に変更される可能性があります。
これまで契約していた大手電力会社との契約が「自動更新」となっていれば、売電は引き続き行えますが、売電単価はFIT期間中よりも大幅に下がります。
もし自動更新になっていなかった場合は、売電契約がなくなるため、発電して使いきれなかった余剰電力は、送配電事業者に無償で引き取られることになります。
卒FITを迎える前に、契約内容を確認し、自分にとって最適な売電先を見つけておくことが重要です。
まとめ
この記事では、卒FITの基本的な知識から、売電先の選び方、手続き方法までを解説しました。
卒FITを迎えることは、太陽光発電の運用方法を見直す絶好のチャンスです。
本記事で紹介した、卒FIT後の選択肢は「これまで通り売電を続ける」「蓄電池を導入する」「売電先を新電力に切り替える」の3つです。
特に、新電力への切り替えは、より高い売電価格や魅力的な特典を得られる可能性があるため、積極的に検討する価値があります。
最も大切なのは、売電価格だけでなく、電気料金やセット割引、サポート体制など、ご自身のライフスタイルに合った条件を総合的に比較することです。
卒FITを機に、改めて太陽光発電の運用方法を考え直すことで、家計の負担を減らしながら環境にも優しい、より豊かな暮らしを実現できます。
この記事が、その一歩を踏み出すための手助けになれば幸いです。