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卒FIT後の太陽光発電市場の現状

太陽光発電を設置した多くの家庭にとって、「卒FIT」という言葉を耳にする機会が増えてきました。卒FITとは、固定価格買取制度(FIT)の契約期間が終了することを指します。2012年にFIT制度が始まってから10年が経過し、順次「卒FIT」を迎える設備が出始めています。

資源エネルギー庁によれば、2019年末だけで約53万件、累積で2023年までに約165万件(670万kW)の住宅用太陽光発電がFITを卒業すると見込まれていました。これは多くの太陽光発電ユーザーがFIT後の活用方法を考える必要があることを意味しています。

重要なのは、FIT期間が終了してもパネルはまだ活躍できるということです。太陽光パネルは一般的に20~30年の寿命があり、卒FIT後も発電を続けることができます。つまり、買取価格は下がりますが、引き続き電力を活用する価値は十分にあるのです。

卒FIT後の売電先の選択肢

卒FIT後の選択肢としては、主に二つの方向性があります。一つは引き続き余剰電力を売電すること、もう一つは自家消費に重点を置くことです。

売電を続ける場合、これまでのように電力会社が固定価格で買い取る義務はなくなりますので、自分で売電先を選ぶ必要があります。多くの電力会社や新電力(新規参入の電力会社)が卒FIT向けの買取プランを用意しています。

例えば、以下のような買取プランがあります。

  • KDDIの「auでんき」:7~9円/kWhで余剰電力を買取、電子マネー充当で1円上乗せ
  • 伊藤忠エネクス系「TERASELでんき」:地域・プランにより7.1~14.5円/kWh
  • 住友林業の「スミリンでんき」:11円/kWh
  • 東京ガス:通常約10.5円/kWh、指定蓄電池購入で半年間23円/kWh

また、トラストバンク社のように、余剰電力を自治体に寄付して地域の電力に充てたり、寄付量に応じて地域特産品ポイントがもらえるといったユニークなサービスも登場しています。

売電単価はFIT期間中の高値(当初は42円/kWh)に比べると大幅に下がりますが、パネルの設置費用は既に回収済みの方が多いでしょうから、引き続き売電収入を得られるメリットはあります。

自家消費型への移行メリット

卒FIT後は売電価格が下がるため、売電だけに頼るのではなく、発電した電力を自宅で積極的に使う「自家消費」へのシフトが注目されています。

自家消費のメリットは以下の通りです。

電気代削減効果

太陽光発電した電気を自分で使うことで、電力会社からの購入量を減らし、電気代を節約できます。特に近年の電気料金高騰の中、自家消費の経済メリットは増しています。

蓄電池との組み合わせ

蓄電池を導入すれば、昼間の余剰電力を貯めておいて夜間に使用することが可能になります。これにより自家消費率が高まり、さらなる電気代削減効果が期待できます。

停電対策

蓄電池と太陽光発電の組み合わせは、停電時の非常用電源としても活躍します。災害が増加している昨今、安心・安全面でのメリットも大きいです。

例えば、昼間に発電した電力で家電を使い、余った電力を蓄電池に充電して夜間に使うことで、「電気の自給自足」に近づくことができます。

新たなビジネスモデルの登場

卒FIT後の太陽光発電活用法として、従来の単純な売電や自家消費だけでなく、新たなビジネスモデルも登場しています。これらは技術の進化とデジタル化によって可能になった仕組みです。

VPP(仮想発電所)への参加

VPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)とは、家庭の太陽光発電や蓄電池などの分散型エネルギーリソースをIoT技術で束ねて、あたかも一つの発電所のように運用する仕組みです。

具体的な例として、東邦ガスの「わけトク」サービスがあります。このサービスでは、家庭の蓄電池を遠隔制御し、電力需給がひっ迫した時に蓄電池から電力系統へ電力を供給します。

「わけトク」の特徴的なのは、その高い買取単価です。2024年5月には1kWhあたり33.75円という価格で買取がおこなわれました。これはFIT期間中よりも高い単価で、売電収入を重視する家庭にとって非常に魅力的です。実際、買取単価が30円/kWh前後と高水準で、全量自家消費するよりも経済メリットが大きい仕組みになっています。

VPPに参加するには通常、対応した蓄電池の導入が必要ですが、投資に見合うリターンが期待できる新しい収益モデルとして注目されています。

PPA(電力購入契約)方式

FITに依存しない売電形態として、PPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)も注目されています。

PPAは太陽光発電事業者と電力の需要家(企業や施設など)が直接契約を結び、長期間にわたって電力を売買する仕組みです。特にオフサイトPPAでは、発電場所と使用場所が離れていても、送配電網を介して電力供給が可能です。

卒FIT設備を持つ家庭や事業者が、地域の企業や施設とPPA契約を結ぶことで、安定した収入を得られる可能性があります。単に電力会社に売るより高い価格で買い取ってもらえる場合もあり、新たな選択肢として期待されています。

自治体・企業による支援策

卒FIT電力を活用するための支援策も、自治体や企業から様々に提供されています。これらは再生可能エネルギーの普及を促進するとともに、卒FIT後の活用に悩む太陽光発電所有者のサポートになります。

地域新電力による買取事例

地域新電力とは、地域資源を活かしたエネルギー事業を行う小規模な電力会社です。卒FIT電力の買取にも積極的に取り組んでいます。

その例として、千葉県銚子市の地域新電力「銚子電力」の取り組みが挙げられます。銚子電力は東京都・埼玉県・小田原市と協働し、卒FITの余剰電力を買い取って自治体施設で利用する事業を展開しました。

このような取り組みの特徴は、単に電力を買い取るだけでなく、地域内での活用や災害時の電力確保など、地域貢献に繋がる点です。発電家庭にとっては自分たちの発電した電気が地域で役立つという満足感も得られます。

地域新電力による卒FIT電力買取は、地産地消の観点からも理想的なエネルギーの循環システムと言えるでしょう。

企業の特典プログラム

大手企業も独自の卒FIT支援策を展開しています。イオングループの事例は特徴的です。

イオンは脱炭素ビジョンに基づき、電力会社が卒FIT家庭から買い取ったCO2排出ゼロ電力の環境価値を自社で活用し、その提供量に応じてWAONポイントを発電家庭に還元する仕組みを導入しました。これにより家庭はポイント収入を得つつ、企業側は再エネ利用による温室ガス削減を図るWin-Winのモデルとなっています。

また、東京ガスは蓄電池購入者に対する特典として、半年間は高い価格(23円/kWh)で買い取るプログラムを提供しています。こうした特典は蓄電池導入の初期投資を回収しやすくするものです。

さらに、地方自治体の中には、卒FITを迎える家庭に対して蓄電池やHEMS(家庭用エネルギー管理システム)の導入補助を拡充するケースもあります。例えば愛知県ではHEMS設置に1万円の補助金を設定しているほか、多くの自治体が蓄電池導入に補助金を出しています。

蓄電池とHEMSの活用

卒FIT後の太陽光発電の価値を最大化するには、蓄電池とHEMS(Home Energy Management System)の活用が鍵となります。これらは単なる付属設備ではなく、スマートな電力利用を可能にする重要なツールです。

蓄電池導入のメリット

蓄電池を導入することで、太陽光発電の活用の幅が大きく広がります。主なメリットは以下の通りです。

電気の自家消費率向上

太陽光発電は昼間に発電量が多くなりますが、多くの家庭では日中は電力消費が少なく、夕方以降に電力需要が高まります。蓄電池があれば、昼間の余剰電力を貯めておいて、電力需要の高い夕方や夜間に使用できます。これにより自家消費率が高まり、電力会社から購入する電力量を減らせるため、電気代の節約につながります。

停電時の非常用電源

近年、自然災害に伴う停電リスクが高まっています。蓄電池があれば、停電時でも一定時間は電力を供給し続けることができるため、冷蔵庫や照明など最低限の生活に必要な電力を確保できます。太陽光発電と組み合わせれば、日中は発電しながら蓄電できるため、長期停電にも対応しやすくなります。

経済的なメリット

電力会社からの買電価格と売電価格には大きな差があります。例えば買電が30円/kWh程度なのに対し、卒FIT後の売電は7~14円/kWh程度です。この差を考えると、売電するよりも自家消費した方が経済的です。蓄電池を導入すれば自家消費率を上げられるため、結果的に経済メリットが大きくなります。

多くの自治体では蓄電池導入に対する補助金制度も整備されており、初期投資の負担を軽減できる場合もあります。お住まいの自治体の補助金情報を確認してみることをおすすめします。

HEMSによる電力管理の効率化

HEMS(Home Energy Management System)は家庭内のエネルギー使用を管理・最適化するためのシステムで、卒FIT後の太陽光発電の活用を効率化するのに役立ちます。

エネルギーの「見える化」

HEMSの基本機能は、家庭内の電力使用状況をリアルタイムで「見える化」することです。太陽光発電量、蓄電池の充放電状況、各家電の消費電力などを一元的に管理・表示できます。これにより、いつ、どこで、どれだけ電力を使っているかが分かり、節電の意識が高まります。

自動制御によるスマートな運用

高機能なHEMSでは、家電やエネルギー機器の自動制御も可能です。例えば、太陽光発電量が多い時間帯に自動的に洗濯機や食洗機を動かしたり、蓄電池の充放電を最適化したりすることができます。

また、電力料金の安い時間帯に蓄電池に充電し、料金の高い時間帯に放電するといった設定も可能です。このような制御により、エネルギーコストを最小化しながら快適な生活を実現できます。

主なHEMSの例

現在、多くのメーカーからHEMS製品が提供されています。

  • パナソニックの「AiSEG2」:太陽光発電や蓄電池と連携し、家電の制御も可能
  • シャープの「COCORO ENERGY」:クラウド連携で外出先からもスマホで管理可能
  • メディオテック社の「ミルエコmini」:設置が簡単で、分電盤にセンサーを取り付けるだけ

HEMSの導入費用は機器代・工事代で数万円~十数万円程度ですが、自治体によっては補助金が出る場合もあります。

まとめ:卒FIT後も太陽光発電を賢く活用するポイント

卒FIT後も太陽光発電設備は十分に活用価値があります。20~30年の寿命があるパネルを最大限活用するために、以下のポイントを押さえましょう。

売電と自家消費のバランスを考える

卒FIT後は、単純に売電だけを考えるのではなく、自家消費とのバランスを考えた運用が重要です。売電単価が下がった分、自家消費によって購入電力を減らすことで、トータルの経済メリットを高めることができます。

新サービスの活用を検討する

VPPへの参加やPPA契約など、新しい形の電力活用サービスも増えています。特に蓄電池を導入済みまたは導入予定の場合は、VPPサービスへの参加で高い売電単価が実現できる可能性があります。各サービスの条件を比較検討しましょう。

蓄電池・HEMS導入を検討する

卒FIT後の太陽光発電の価値を最大化するためには、蓄電池やHEMSの導入が効果的です。初期投資は必要ですが、長期的に見れば電気代削減と防災対策の両面でメリットがあります。自治体の補助金制度も活用して、導入コストを抑える工夫をしましょう。

情報収集を怠らない

再生可能エネルギー分野は技術革新や制度変更が早いため、常に最新情報をチェックすることが大切です。資源エネルギー庁や自治体のホームページ、電力会社の情報などをこまめに確認しましょう。

太陽光発電は卒FIT後も家庭の大切な「エネルギー資産」です。賢く活用して、経済的かつ持続可能な暮らしを実現しましょう。

 

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