
卒FITとは?固定価格買取制度満了後の選択肢
太陽光発電を設置した多くの家庭にとって、「卒FIT」は避けて通れない重要な転機です。卒FITとは、固定価格買取制度(FIT)による10年間の買取期間が終了することを指します。2009年から始まったこの制度は、太陽光発電の普及促進のため、発電した電気を高額(当初は48円/kWh)で買い取ることを電力会社に義務付けました。
しかし、この買取期間は永久ではなく、設置から10年で終了します。初期に設置した方々はすでに卒FITを迎えていますし、これから数年のうちに多くの家庭が次々と卒FITを迎えることになります。卒FIT後もパネルは発電し続けますが、売電の条件は大きく変わります。
FIT制度の仕組みと卒FIT後の変化
FIT制度では、太陽光で発電した電気を国が定めた固定価格で電力会社が買い取ることが義務付けられていました。家庭用(10kW未満)の太陽光発電の場合、余った電気を10年間、設置当時の価格(初期は48円/kWh、現在は約7円/kWh程度まで下がっています)で売ることができました。
この制度のおかげで、高額な初期投資を回収できる見通しが立ち、多くの家庭が太陽光パネルを設置しました。しかし、卒FIT後は以下のように状況が変わります:
- 買取義務がなくなる:電力会社は必ずしも買い取る義務がなくなります
- 買取価格が大幅下落:従来の48円や42円などから7~9円/kWh程度に下がります
- 選択肢が広がる:一方で、売電先を自由に選べるようになります
卒FIT後に考えるべき3つの選択肢
卒FITを迎えた後、太陽光発電設備をどう活用するか、主に以下の3つの選択肢があります。
1. 電力会社への売電を継続する 最もシンプルな選択肢です。卒FIT後も引き続き余剰電力を電力会社に売ることができますが、買取価格は大幅に下がります。大手電力では7~9円/kWh程度が一般的で、新電力では10円以上で買い取るケースもあります。売電収入は減りますが、手続きが簡単で、特に対応が不要な場合も多いです。
2. 自家消費を増やす 発電した電気をできるだけ自宅で使うことで、電気代を節約する方法です。卒FIT後は売電単価(7~9円/kWh)よりも電気の購入単価(20~30円/kWh程度)の方が高いため、自家消費の方が経済的にお得になります。昼間に家電をたくさん使うよう生活リズムを変えるなどの工夫が必要です。
3. 蓄電池を導入する 昼間の余剰電力を蓄電池に貯めて夜間に使用することで、自家消費率を高める方法です。初期費用はかかりますが、長期的には電気代削減効果が期待できます。また、停電時のバックアップ電源としても役立ちます。
これらの選択肢は排他的ではなく、組み合わせることも可能です。例えば、蓄電池を導入しつつ、余った電気は電力会社に売るといった方法も考えられます。自分の生活スタイルや予算、設備の状態などを踏まえて最適な選択をすることが大切です。
大手電力会社と新電力の卒FITプラン比較
卒FIT後の売電先として、従来の大手電力会社(東京電力、関西電力など)と、電力自由化後に参入した新電力から選ぶことができます。それぞれに特徴がありますので、比較して検討することが大切です。
大手電力会社の卒FITプラン特徴
大手電力会社(東京電力、関西電力、中部電力など)の卒FITプランには以下のような特徴があります。
買取価格の水準 大手電力会社の卒FIT向け買取価格は、一般的に7~9円/kWh程度です。例えば、東京電力エナジーパートナーは8.5円/kWh(税込)、九州電力は7.0円/kWh(税込)といった水準となっています。
メリット
- 手続きの手軽さ:FIT期間中にすでに契約関係があるため、特別な申し込みをしなくても自動的に卒FIT後の買取プランに移行するケースが多いです
- 安心感と安定性:長年の実績がある企業なので、突然の倒産リスクや急な契約変更の心配が少ないです
- 対応エリアの広さ:各社の供給エリア全域で対応しているため、地域による制限がありません
デメリット
- 買取価格が低め:新電力に比べると買取価格が低く設定されている傾向があります
- 付加サービスが少ない:基本的にシンプルな買取だけで、特典やポイント還元などが少ないケースが多いです
大手電力各社でも、最近では単純な買取だけでなく、「仮想蓄電サービス」など付加価値のあるプランも増えてきています。例えば、東京電力の「再エネおあずかりプラン」や関西電力の「貯めトクサービス」などは、余剰電力を仮想的に貯めておき、夜間の電気使用時に相殺できるサービスです。
新電力各社の卒FITプラン特徴
電力自由化以降に参入した新電力各社も、卒FIT向けの買取プランを提供しています。その特徴は以下の通りです。
買取価格の水準 新電力の買取価格は大手を上回るケースが多く、10~13円/kWh程度の買取単価を提示する事業者も少なくありません。中には期間限定で16円/kWhなどの高値を提示した例もあります。
メリット
- 買取単価が高め:大手電力より高い買取価格を提示するケースが多く、売電収入アップが期待できます
- 多様な特典:電気料金プランとのセット割引や、独自ポイントの付与など、付加価値サービスが充実しています
- 選択の自由:売電だけの契約や、電気の購入契約とのセットなど、多様な契約形態から選べます
デメリット
- 契約条件の確認が必要:電力購入契約とのセット条件がある場合や、契約期間に縛りがあるケースもあります
- 対応エリアの制限:提供エリアが限定されていることがあり、住んでいる地域によっては契約できない場合があります
- 事業継続性の不安:比較的新しい事業者の場合、長期的な事業継続性に不安がある場合もあります
代表的な新電力としては、丸紅新電力(13.5円/kWh)、出光興産(電気セット11.5円/kWh)、ENEOSでんき(売電のみOK)などがあります。各社とも特徴的なサービスを展開しており、単なる価格競争だけでなく、サービス面での差別化も図っています。
卒FIT後の売電先を選ぶ際には、単に買取価格だけでなく、契約条件や付帯サービス、支払い方式(現金振込か電気料金相殺か)なども含めて総合的に検討することが大切です。
地域別・電力会社別の卒FIT買取価格一覧
卒FIT電力の買取価格は電力会社によって異なるだけでなく、地域(電力エリア)によっても差があります。自分の住んでいる地域で利用できるサービスを知ることが、最適な選択の第一歩です。
東日本エリアの買取価格比較
東京電力エリア(関東甲信越)
東京電力エリアは卒FIT家庭が最も多いエリアの一つで、多くの電力会社が買取サービスを展開しています。
- 東京電力エナジーパートナー:8.5円/kWh(標準プラン)
- 丸紅新電力:13.5円/kWh(売電契約のみOK)
- 出光興産(出光昭和シェル):9.5円/kWh(スタンダードプラン)、11.5円/kWh(電気セットプラン)
- 東京ガス:最大23円/kWh(蓄電池導入サポートプラン、導入後半年間限定)
- 伊藤忠エネクス:9円/kWh(期間限定キャンペーンで16円/kWhの実績あり)
東北電力エリア
- 東北電力:7.5円/kWh程度
- eco電力「つながるecoでんき」:9円/kWh(電気料金プラン加入で加算)
- 全農エネルギー:9.5円/kWh(JAでんき利用で10円/kWh)
北海道電力エリア
- 北海道電力:7円/kWh程度
- エルピオでんき:8.5円/kWh
- 北ガスの電気:8円/kWh
東日本エリアでは、大手商社系の新電力や、ガス会社系の新電力が比較的高い買取価格を提示している傾向があります。また、東京都では「とちょう電力プラン」という自治体連携プランも期間限定で実施された実績があります。
西日本エリアの買取価格比較
関西電力エリア
- 関西電力:8円/kWh程度
- 大阪ガス:8円/kWh+電気セット契約で+1円
- idemitsuでんき:9.5円/kWh、電気セットで11円/kWh
- Looopでんき:9円/kWh程度
九州電力エリア
- 九州電力:7.0円/kWh
- 九電みらいエナジー:7.5円/kWh
- みんな電力:9円/kWh前後
- エネワンでんき:8.5円/kWh
中部電力エリア
- 中部電力ミライズ:8円/kWh、Amazonギフト券8.1円/kWh、WAONポイント付与プランあり
- 東邦ガス:8.5円/kWh、ガスセットで加算
- 一条工務店(一条でんき):9円/kWh前後
西日本エリアでは、都市ガス会社が電気とガスのセット契約で買取価格を上乗せするプランが目立ちます。また、ポイント還元型のプランも多く見られます。
各地域の新電力は参入・撤退や価格改定が頻繁に行われるため、最新情報は各社の公式サイトや、経済産業省資源エネルギー庁の公開情報で確認することをおすすめします。プラン選びの際は、自分の住んでいる地域で利用可能なサービスを網羅的に比較することが大切です。
卒FIT向けの特別プラン・サービス内容
卒FIT後も太陽光発電設備を有効活用するため、電力会社各社は単純な買取だけでなく、様々な特別プランやサービスを提供しています。ここでは代表的な特別プランを紹介します。
仮想蓄電池サービス(お預かりプラン)
実際に蓄電池を設置しなくても、発電した余剰電力を仮想的に「預かって」後で使えるようにするサービスです。自家消費率を上げる効果があり、実質的な売電価値を高めることができます。
東京電力の「再エネおあずかりプラン」
- 内容:月250kWhまでの余剰電力を預かり対象とし、電気使用量に充当(相殺)することで自家消費したとみなせる
- 料金:月額4,000円のサービス料
- 特徴:250kWhを超えた余剰電力は8.5円/kWhで買取
- 条件:東京電力の電気契約(従量電灯またはスタンダードプラン)が必要
関西電力の「貯めトクサービス」
- 内容:容量別に3プラン(S:50kWh/月、M:150kWh/月、L:無制限)を提供
- 料金:S:800円/月、M:2,350円/月、L:5,000円/月
- 特徴:預かり枠内の余剰電力を電気料金の高単価部分と相殺でき、相殺額を現金で受け取れる
- 条件:関西電力の「はぴeタイム」など特定の電気料金プランが必要
- 注意点:2025年4月でサービス終了予定と発表されている
仮想蓄電サービスは、実物の蓄電池を購入するコストを抑えつつ、余剰電力の価値を高められるメリットがあります。ただし、月額料金がかかるため、自分の発電・消費パターンでメリットがあるかどうか、事前にシミュレーションすることが大切です。
ポイント還元・特典付きプラン
現金ではなくポイントや商品券で還元するプランも人気です。実質的な買取単価がアップする場合があります。
中部電力ミライズの「新たな電気買取サービス」
- 現金8円/kWhの他に、Amazonギフト券8.1円分/kWhコースを提供
- WAONポイントで実質9円相当(7円+2ポイント)/kWhのコースも
中国電力「ぐっとずっと。グリーンフィット」
- WAONポイントやゆめカードポイント(ゆめか)で受け取るプラン
- 日常的に利用するポイントなら、実質的に買取価値がアップ
北陸電力「あんしん年間定額プラン」
- 年間の買取額を15,000~35,000円/年の範囲で定額設定
- 発電量に関わらず一定額を受け取れる安心感
- 契約容量や過去の発電実績に応じて定額額が決定
ポイント還元型プランを選ぶ際は、そのポイントを日常的に使えるかどうかも重要な判断基準です。また、ポイントの有効期限や交換手数料なども確認しておくとよいでしょう。
蓄電池連携プラン
蓄電池の導入を促進するため、導入者向けの特別買取プランも増えています。
東京ガス「蓄電池導入サポートプラン」
- 自社指定の蓄電池を購入した卒FITユーザーを対象に、導入後半年間は23円/kWhという高単価で買取
- 解約・違約金も0円で、蓄電池購入費用の一部回収に貢献
- 蓄電池によるピークカットと余剰売電の組み合わせで経済性を高める
各社の蓄電池セットプラン
- 多くの電力会社やメーカーが、太陽光と蓄電池のセット販売を推進
- 卒FIT向けに蓄電池導入時の優遇条件(補助金上乗せ、特別割引など)を提供するケース増加
- V2H(Vehicle to Home)機器やEVとのセット優遇プランも登場
蓄電池関連のプランは初期投資が大きいものの、長期的な経済性や停電時の安心感というメリットがあります。また、自治体の補助金と組み合わせることで、導入コストを抑えられる場合もあります。
これらの特別プランは一長一短があり、自分のライフスタイルや家庭の電力使用パターン、将来計画によって最適な選択が変わります。単純な買取単価の高さだけでなく、トータルでどのプランが自分に合っているかを見極めることが大切です。
卒FITプラン選びのポイントと注意点
卒FIT後の電力プランを選ぶ際には、単純に買取価格だけでなく様々なポイントを確認することが大切です。ここでは契約時の注意点や、プラン選びのコツをご紹介します。
契約条件をしっかり確認
対応エリアのチェック 電力会社によって、卒FIT電力の買取サービスを提供しているエリアが異なります。契約したい電力会社が自宅のエリアで買取サービスを行っているか、事前に確認することが大切です。例えば、東京電力の一部プランは関東甲信越の特定地域に限定されています。
セット契約条件の有無 多くの新電力では、電気の購入契約とセットであることを条件に買取単価を上乗せするプランがあります。たとえば「電気の購入契約をすると買取単価が1円アップ」といったものです。電気の購入先を変えたくない場合は、購入契約を伴わない売電専用プランを選ぶ必要があります。ENEOSでんきなど、売電だけの契約も可能な会社もあります。
支払い方式の確認 売電収入の受け取り方も会社によって異なります。主に以下の2種類があります。
- 現金振込型:売電収入を現金で口座に振り込む方式
- 電気料金相殺型:売電収入と電気料金を相殺して請求する方式
現金振込型は収入として明確になりますが、確定申告が必要になる場合があります。電気料金相殺型は収入として手元に現金は来ませんが、電気代負担を減らせるメリットがあります。
契約期間と解約条件 卒FIT後の売電契約は一般的に1年ごとの自動更新が多いですが、プランによっては契約期間の縛りがあるケースも。また、買取価格が事業者判断で変更される可能性もあるため、価格変更時の通知方法や、他社への乗り換えが可能か(違約金の有無)も確認しておきましょう。
自家消費と売電のバランス
卒FIT後は売電単価(7~10円/kWh程度)よりも電気の購入単価(20~30円/kWh程度)の方が高いため、発電した電気はできるだけ自家消費した方が経済的にお得です。
自家消費率を高める工夫
- 昼間の発電時間帯に家電をたくさん使うようにする
- タイマー機能付き家電で昼間に稼働させる
- エコキュート(電気温水器)を昼間に運転する設定にする
- 在宅ワークなど昼間の在宅時間を増やす
余剰電力の活用方法 自家消費しきれない余剰電力については、以下のような選択肢があります。
- 高単価で買い取ってくれる電力会社に売電する
- 仮想蓄電サービスを利用して、後で使える電気として貯めておく
- 実際の蓄電池に貯めて、夜間や停電時に使用する
- EV(電気自動車)に充電して、移動エネルギーとして活用する
家庭の電力使用パターンや生活スタイルに合わせて、自家消費と売電のバランスを考えることが大切です。
プラン変更の手続き方法
卒FIT後に売電先を変更する場合は、以下の手順で手続きを行います。
1. FIT満了通知の確認 FIT買取期間終了の約4~6か月前に、現在の売電契約先から「買取期間満了のお知らせ」が郵送されてきます。この通知書には、FIT終了日や現在の契約内容、今後の選択肢などが記載されています。大切に保管しておきましょう。
2. 必要書類の準備 売電先変更には以下の書類・情報が必要です。
- 「受給地点特定番号」(22桁の番号)が記載された検針票や満了通知書
- 本人確認書類(運転免許証など)
- 売電料金の振込先となる銀行口座情報
3. 新しい売電先への申し込み 選んだ電力会社の指定する方法で申し込みを行います。多くは公式サイト上の専用フォームや電話窓口から手続き可能です。申し込みをすると、新しい電力会社が必要な手続きを代行してくれます。
4. 切り替え手続きの完了 申込後、約1か月程度で売電先の切り替えが完了します。切替完了後は新しい契約に基づく買取がスタートします。なお、切替時にメーター交換が必要な場合もありますが、基本的に無料で行われます。
FIT満了日までに余裕を持って手続きを開始することが重要です。満了の1~2か月前までには申し込みを済ませておくと安心です。また、多くの大手電力では特に申し出がなければ、満了日に自動で自社の通常買取プランに切り替えてくれるため、手続きが遅れても一時的には安価でも買い取ってもらえます。
まとめ:最適な卒FITプラン選びのステップ
卒FIT後も太陽光発電設備を有効活用するためには、自分に合ったプラン選びが重要です。ここでは、最適なプランを選ぶためのステップをまとめます。
1. 自分の状況を把握する まずは自宅の発電状況や電力使用パターンを確認しましょう。
- 月々の発電量と余剰電力量はどれくらいか
- 自家消費率はどれくらいか
- 電気を多く使う時間帯はいつか
- 将来的に電気の使用量に変化はあるか(家族構成の変化など)
2. 利用可能なプランを比較する 自分の住んでいる地域で利用できる卒FITプランを比較しましょう。
- 買取価格はいくらか
- 契約条件(期間、解約条件など)はどうなっているか
- 付帯サービスや特典はあるか
- 電気購入契約とのセット条件はあるか
3. 長期的な視点で検討する 単純な買取価格だけでなく、長期的な視点で検討することが大切です。
- 蓄電池導入などの投資は割に合うか
- 自家消費中心か、売電中心か
- 今後の電気料金や買取価格の動向予測
- 設備の劣化や寿命も考慮する
4. 柔軟性を持っておく エネルギー市場は変化が速いため、条件が変わったら再検討する柔軟性も大切です。
- 契約は長期縛りのないものを選ぶ
- 定期的に市場の動向をチェックする
- より良い条件が出てきたら乗り換えることも視野に入れる
卒FITは終わりではなく、新たなスタートです。これからも太陽光発電を賢く活用して、経済的メリットと環境貢献を両立させていきましょう。自分のライフスタイルや価値観に合ったプランを選び、長く太陽光発電を活用していくことが大切です。
最新の情報収集を心がけ、自分に最適なプランを見つけてください。また、不明点があれば各電力会社のサポート窓口に相談してみるのも良いでしょう。