
太陽光発電の固定買取価格制度(FIT)が終了する方へ向けて、
売電継続・蓄電池導入・補助金活用まで、卒FIT対策や準備すべきことを詳しく解説します。
卒FITとは?基本を理解しよう
卒FITとは、太陽光発電の「固定価格買取制度(FIT)」による余剰電力の買取期間が終了することを指します。
住宅用の太陽光発電におけるFIT制度の買取期間は、法律で10年間と定められています。
この期間が終わると、余剰電力の価格が大幅に下がります。これが「卒FIT」と呼ばれる状態です。
卒FITを迎えるにあたって、知っておきたい重要ポイントは以下の通りです。
- 何も対策をしないと、余剰電力が「0円」で引き取られる場合がある
- FITの満了日は、発電を開始した日から10年後の同じ日
- 卒FIT後も太陽光パネルは発電を続けるため、新たな活用方法の検討が必要
余剰電力の買取価格が大幅に下がる
FIT制度が適用されていた期間は、国が定めた比較的高い価格で電力が買い取られていました。
たとえば2012年度に設置した住宅用太陽光発電の買取価格は1kWhあたり42円、2014年度は37円と設定されており、売電収入として魅力的な水準でした。
しかし、卒FIT後の余剰電力の売電価格は、これまでの固定価格ではなく、各電力会社が独自に設定する価格に切り替わります。
買取価格は地域や契約先によって異なりますが、大手電力会社は1kWhあたり7〜9円程度、新電力会社は8〜10円程度が一般的です。
そのため、これまでと比べて売電収入が大幅に減少します。
FIT満了時期の確認方法
卒FITの時期を確認するには、以下の方法があります。
1.買取期間満了通知で確認する
FIT制度の買取期間が近づくと、満了の4〜6ヶ月前を目安に「FIT制度 買取期間満了のご案内」が郵送されます。
この通知には「買取満了日」や「設備ID」など、今後の手続きに必要な情報も記載されているため大切に保管しておきましょう。
2.契約書や検針票で確認する
売電契約書には「売電開始時期」が記載されているので、満了日を確認できます。
また、毎月届く検針票(購入電力量のお知らせ)にも「FIT買取開始年月日」や「買取期間満了日」が記載されている場合があります。
3.電力会社のWebサービスで確認する
電力会社の会員向けWebサービスで、買取期間の情報を確認できる場合があります。
例えば、東京電力の場合は「購入実績お知らせサービス」の「購入電力量のお知らせ」の画面に「買取期間満了日」が表示されています。
卒FIT対策の選択肢
卒FIT後には、主に3つの選択肢があります。どの方法を選ぶかによって、売電収入や電気代が大きく異なります。
それぞれのメリット・デメリットを理解して、ご家庭にとって最適な方法を選びましょう。
現在と同じ電力会社に売電する
FIT期間中に売電していた大手電力会社の多くは、卒FIT後も余剰電力の買取サービスを提供しています。
ほとんどの場合、契約手続きなしで自動的に継続プランに移行されるため、手間がかかりません。大手ならではの安心感もあるでしょう。
ただし、買取価格の目安は7〜9円/kWh程度と、FIT期間中に比べて大幅に下がることに注意が必要です。
新しい電力会社に売電する
卒FIT後は、電力の買い取り先を自由に選べるようになります。
新電力会社の中には、大手電力会社よりも高い買取価格を提示しているところもあり、売電先を見直すことで売電収入の改善が期待できます。
なかには蓄電池の導入など、条件付きの高額買取プランもあります。
選択肢は豊富ですが、条件や契約内容をよく確認することが重要です。
自家消費を増やす
卒FIT後は売電価格が大幅に下がるため、電力の売却よりも自家消費を増やす選択肢もあります。
電力会社から購入する電気の単価は、卒FIT後の売電価格よりも高くなるのが一般的なので、自家消費を増やすことで電気代の節約につながります。
次のような機器を導入すると、自家消費の効率を高めることができます。
- 蓄電池:昼間に発電した電気を夜間に使用できる
- V2H:電気自動車(EV)に蓄電し、家庭に電力供給する
- HEMS:家庭のエネルギー使用状況を見える化し、最適に制御する
これらの設備には初期投資が必要ですが、長期的には光熱費の削減や、災害時の備えとして活用できます。
卒FIT通知が届いたらすぐやること
買取期間満了の通知が届いたら、速やかに以下の3つのステップを実行しましょう。
対応が遅れると、卒FIT後の余剰電力が無償(0円)で引き取られる可能性があります。
ステップ1:通知内容の確認
通知書には、今後の手続きに必要な情報が記載されています。以下の情報をチェックし、メモしておきましょう。
- 買取期間満了日
- 現在の売電先
- 設備ID
内容が不明な場合は、記載された問い合わせ先に電話で確認しましょう。
ステップ2:書類の保管
通知書は、今後の売電先の見直しや契約時に必要になる重要な書類なので、紛失しないように保管しておきましょう。
念のためにコピーを取っておくと安心です。
卒FIT後の手続きには以下の情報や書類が必要になります。あらかじめ確認・準備しておきましょう。
- 設備ID(10桁の英数字)
- 買取満了日
- 現在の売電先
- 発電設備の容量(kW)
- 設置場所住所
- 契約者名義
これらの情報は主に以下の書類から確認できます。
- 買取期間満了通知書
- 売電契約書
- 設備認定通知書(経済産業省発行)
- 毎月の検針票(購入電力量のお知らせ)
書類を紛失した場合でも、現在の売電先(電力会社)に連絡すれば、再発行や情報確認に対応してもらえる場合が多いです。
設備認定通知書については、太陽光発電協会(JPEA)代行申請センター(電話:0570-03-8210)が再発行などに対応しています。
ステップ3:家族との方針相談
卒FIT後の対策について家族で話し合い、家庭の方針を決めましょう。選択肢には以下のような対応があります。
- 現在の電力会社との契約を継続する
- 他の電力会社に切り替える
- 蓄電池を導入して自家消費を増やす
特に蓄電池導入を検討する場合は、見積もり取得や工事日程調整に1〜3ヶ月程度必要なため、早めの行動が大切です。
卒FIT直前チェックリスト
卒FITの満了日が近づいてきたら、できるだけスムーズに移行するために、事前の確認が欠かせません。
以下の5つのポイントを確認しておきましょう。
1. 太陽光発電設備の状態確認
まずは、ご自宅の太陽光発電システムが正常に稼働しているかチェックしましょう。
モニターで発電量に大きな低下がないか確認します。パネルの汚れがひどい場合は掃除を検討しましょう。
パワーコンディショナーの動作確認も必要です。
売電契約の切り替えには、スマートメーターの設置が必須となるケースもあるため、現在の売電メーターの種類を確認しておきましょう。
パネルの点検ポイント | ・発電量が極端に下がっていないか確認(経年劣化で10〜15%程度の低下は正常) ・パネル表面の目視チェック(汚れ、変色、破損などがないか) ・屋根や架台に問題がないか確認(雨漏りの兆候、錆びなど) |
パワーコンディショナーの確認 | ・正常に動作しているか(エラー表示がないか) ・異音や異臭がないか ・保証期間が切れている場合が多いので、異常があればメーカーに相談 |
メーターの確認 | ・売電用メーターがスマートメーターになっているか確認 ・アナログメーターの場合は、卒FIT後の契約切替時に自動的に交換案内が来ます |
設備に不安がある場合は、専門業者による点検を依頼することも検討しましょう。
10年以上使用する資産ですので、適切なメンテナンスが長期的な発電効率維持につながります。
2. 契約情報と書類の整理
卒FIT後の手続きでは、契約情報や書類が必要になります。
設備IDや発電容量、買取期間満了日などの情報は、メモにまとめておくと便利です。
また、契約書や認定通知書、満了通知書などの書類はファイリングして保管しておきましょう。
紛失している書類がある場合は、早めに再発行手続きが必要です。
3. 今後のプラン最終決定
売電を継続するか、蓄電池を導入して自家消費を増やすかなど、卒FIT後の方針を決めましょう。
売電を継続する場合、どの電力会社と契約するかを決め、申し込み手続きをします。
一方、蓄電池を導入する場合は、機種の選定や施工業者との契約、補助金の確認などの準備が必要です。
4. 現行契約の終了確認
現在の売電契約が満了と同時に自動解約されるのか、それとも継続プランに自動移行するのか確認しておきましょう。
自動継続する場合、必要に応じて停止手続きを行います。
新たに契約する電力会社との契約開始日と、現在の契約の終了日に空白期間ができないよう日程を調整しましょう。
5. 非常時への備え検討
卒FITのタイミングは、非常時の備えを検討するよい機会です。
蓄電池を導入しない場合でも、自立運転コンセントの場所や使い方を確認しておきましょう。
ポータブル電源などの非常用電源を用意しておくと、停電時にも安心です。
これらの5つのチェック項目を事前に確認しておくことで、卒FIT後も太陽光発電のメリットを享受し続けることができます。
最適な選択肢の見つけ方
卒FIT後の対策は、ご家庭のライフスタイルや電気の使い方によって最適な選択肢が異なります。
代表的な生活パターン別に、おすすめの対策をご紹介します。
昼間留守がちな家庭におすすめ
日中は仕事や学校で不在になることが多い家庭の場合、太陽光で発電した電力を自宅で使う機会が少なくなります。
このようなご家庭では、自家消費率が低いため、余剰電力の売電を継続する方法が適しているといえます。
売電先を自由に選べる卒FIT後は複数の電力会社を比較し、より高い買取価格を提示する会社を選ぶのがポイントです。
初期費用がかからず、切り替えの手間も少ないため、最も手軽に始められる方法です。
在宅時間が長い家庭におすすめ
在宅時間が長く、日中も多く電気を使うご家庭では、蓄電池の導入でより多くのメリットを得られる可能性があります。
昼間に発電した電気を蓄電し、夕方や夜など電気代が高い時間帯に使用することで、電気代を節約できます。
初期投資は必要ですが、電気代削減によって比較的早期に投資回収できる可能性があり、長期的に見ると経済的です。
防災意識の高い家庭におすすめ
経済性だけでなく防災面も重視する家庭には、蓄電池の導入が適しています。
蓄電池を導入すれば、万が一の停電時に備えられます。
太陽光発電と蓄電池を組み合わせれば、長期停電にも対応できるため、防災面での安心感を得られます。
電気自動車をお持ちの家庭におすすめ
電気自動車をお持ちの方は、昼間に発電した電力でEVを充電すると、燃料費を削減できます。
さらに、V2H(Vehicle to Home)システムを導入すれば、EVから家庭への電力供給も可能になり、蓄電池と同様の効果を得られます。
蓄電池やV2Hの導入は補助金を活用できる
蓄電池やV2Hの導入には初期費用がかかりますが、国や自治体が実施する補助金制度を活用すれば、負担を大幅に軽減できます。
国の補助金(DR補助金・CEV補助金など)
家庭用蓄電池の導入を支援するために、国が実施しているのが「DR補助金」です。
2025年は4月中旬に申請受付が開始されましたが、7月上旬には予算上限に達し、受付が早期終了しました。
この補助金を受けるには、購入前に申請することが必須条件となっています。
そのため、蓄電池の導入を検討している場合は、最新の補助金情報をチェックし、早めに申請準備を進めることが重要です。
また、2025年度はV2H機器の導入に対する「CEV補助金」も用意されています。
申請期間は7月末〜9月末とされており、設備費と工事費を含めて最大65万円の補助が受けられます。
自治体の補助金も併用可能
蓄電池やV2Hの導入に対しては、国だけでなく地方自治体も独自の補助金を用意している場合があります。
自治体の補助金は、国の補助金と併用できるケースが多く、導入費用の負担をさらに軽減できる可能性があります。
お住まいの自治体のWebサイトを確認し、積極的に活用することをおすすめします。
まとめ:卒FIT対策は早めに準備を始めよう
卒FIT対策は、通知が届いてから満了日までの間に準備が必要です。
どの対策が適切かは、各家庭のライフスタイルによって異なります。
できるだけ余裕を持って行動すれば、ご家庭に最適な選択肢を見つけられます。
通知が届いたらすぐに内容を確認し、早めに準備を始めましょう。