
卒FITとは?FIT制度の基本と卒業後の変化
太陽光発電を設置した多くの方が直面する「卒FIT」という言葉をご存知でしょうか。これは「固定価格買取制度(FIT)」の適用期間が終了することを指します。特に2012年頃から太陽光発電を設置した方々が次々と直面している課題です。
卒FIT後は、それまで保証されていた高額な売電価格が大幅に下がります。例えば、設置当初に42円/kWhで売電できていた方が、卒FIT後には7~9円/kWhという水準まで下落することも珍しくありません。これは収入が1/5以下になることを意味します。
売電収入の変化例:
- FIT期間中:年間余剰電力2,000kWh × 42円 = 8万4,000円
- 卒FIT後:年間余剰電力2,000kWh × 8円 = 1万6,000円
この大きな収入減少に対応するため、どのような選択肢があるのか、今から知っておくことが大切です。
FIT制度の仕組みと目的
固定価格買取制度(FIT)は、再生可能エネルギーの普及を目的として2012年7月にスタートした制度です。この制度では、太陽光発電などの再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定の期間・一定の価格で買い取ることを義務付けています。
制度の特徴は以下の通りです。
- 買取価格が固定される:導入時の価格で一定期間(家庭用太陽光の場合は10年間)買い取り続ける
- 買取費用は国民で負担:電気料金に上乗せされる「再エネ賦課金」として広く薄く負担
- さまざまな種類の再エネが対象:太陽光だけでなく、風力・水力・地熱・バイオマスなども含む
この制度により、それまで普及が進まなかった太陽光発電が急速に広まりました。設置者にとっては投資回収の見通しが立てやすくなり、日本全体としては、震災後のエネルギー自給率向上や脱炭素社会への移行というメリットがありました。
卒FITの意味と対象者
「卒FIT」とは、FIT制度による固定価格での買取期間(10年間)が満了することを意味します。家庭用太陽光発電(10kW未満)の場合、設置時期に応じて以下のように卒FITを迎えます。
- 2009年11月導入 → 2019年11月に卒FIT
- 2012年7月導入 → 2022年7月に卒FIT
- 2015年4月導入 → 2025年4月に卒FIT
すでに多くの方が卒FITを迎えており、これから卒FITを迎える方も年々増えています。資源エネルギー庁の発表によれば、2019年から2023年にかけて約167万件の住宅用太陽光発電が卒FITを迎える見込みです。
卒FITの対象となるのは主に以下の方々です。
- 家庭用太陽光発電(10kW未満)を設置して10年が経過した方
- FIT制度開始初期(2012年~2015年頃)に設置した方が特に多い
- 主に個人のご家庭で、屋根に4~6kW程度の太陽光パネルを設置している方
卒FIT後の売電価格はどう変わる?
卒FIT後の最大の変化は、売電価格の大幅な下落です。FIT制度では設置した年度の買取価格が10年間保証されていましたが、その期間が終了すると市場価格に近い水準まで下がります。
設置年度 | FIT買取価格 | 卒FIT時期 | 卒FIT後の一般的買取価格 | 価格下落率 |
---|---|---|---|---|
2009年度 | 48円/kWh | 2019年 | 7~9円/kWh | 約85%減 |
2010年度 | 48円/kWh | 2020年 | 7~9円/kWh | 約85%減 |
2011年度 | 42円/kWh | 2021年 | 7~9円/kWh | 約80%減 |
2012年度 | 42円/kWh | 2022年 | 7~9円/kWh | 約80%減 |
2013年度 | 38円/kWh | 2023年 | 7~9円/kWh | 約80%減 |
2014年度 | 37円/kWh | 2024年 | 7~9円/kWh | 約80%減 |
2015年度 | 33~35円/kWh | 2025年 | 7~9円/kWh | 約75%減 |
例えば、FIT制度が始まった2012年度に太陽光発電を設置した場合、42円/kWhという高い買取価格が適用されていました。しかし、卒FIT後は一般的に7~9円/kWh程度の買取価格になります。これは約1/5の価格になることを意味します。
具体的な収入減少例
- 4kW設備での年間余剰電力量:約4,000kWh
- FIT期間中の年間売電収入:4,000kWh × 42円 = 16万8,000円
- 卒FIT後の年間売電収入:4,000kWh × 8円 = 3万2,000円
- 差額:13万6,000円の減少
月々に換算すると約1万1,000円の収入減となり、家計に与える影響は小さくありません。
卒FIT後の選択肢と対応策
卒FIT後の選択肢は大きく分けて3つあります。それぞれのメリット・デメリットを理解して、ご自身に合った方法を選びましょう。
1. 現状のまま(地域電力会社との契約を継続)
- メリット:特に手続きが不要。自動的に新たな買取契約に移行する
- デメリット:買取価格が最も低くなる可能性が高い(7~8円/kWh程度)
2. 新たな買取事業者と契約する
- メリット:大手電力より高い買取価格が期待できる(8~12円/kWh程度)
- デメリット:手続きが必要。電気の供給契約とセットになる場合が多い
3. 蓄電池を導入して自家消費を増やす
- メリット:電気代の節約効果が大きい。停電時の非常用電源にもなる
- デメリット:初期投資が必要(蓄電池導入費用は100万円前後)
売電価格が低下した現在では「売るより使う」選択肢が経済的に有利だと言われています。特に電気料金が高騰している現在、自家発電した電気を蓄電池に貯めて夜間に使用することで、電気代の節約効果が大きくなります。
売電を続ける場合の手続きと注意点
卒FIT後も売電を続ける場合は、新たな買取契約を結ぶ必要があります。手続きの流れは以下の通りです。
1. 卒FIT通知の確認
- 卒FIT満了の約3ヶ月前に、現在契約している電力会社から「買取期間満了のお知らせ」が届きます
- 通知には満了日と今後の選択肢が記載されています
2. 新しい買取事業者の選定
- 複数の電力会社・新電力の買取条件を比較検討する
- 価格だけでなく、契約期間や解約条件も確認する
3. 申し込み手続き
- 選んだ事業者のホームページやコールセンターで申し込む
- 必要書類:「買取期間満了のお知らせ」のコピー、現在の検針票など
4. 切り替え完了
- FIT期間満了日に合わせて新しい契約に切り替わる
- 以降は新しい買取価格で売電収入が発生する
注意点として、新電力に切り替える場合は電気の供給契約もセットになることが多いです。また、一部の買取サービスでは最低契約期間や解約金が設定されている場合があります。さらに、買取価格が変動制の場合は、将来的に価格が下がる可能性もあるため、契約条件をよく確認しましょう。
蓄電池導入による自家消費のメリット
蓄電池を導入することで、余剰電力を自分で貯めて使えるようになります。これによるメリットは多岐にわたります。
経済的メリット
- 昼間の余剰電力を夜間に使用できるため、電気料金の節約になる
- 特に高い夜間の電力使用をカットできる(電気代の高騰対策に有効)
- 蓄電池の価格は年々低下傾向(5年前と比べて約30%下落)
停電対策としてのメリット
- 災害時や計画停電時にも電気が使える
- エアコンや冷蔵庫など、生活に必要な電気製品を使用可能
- 特に高齢者や医療機器を使用している方には安心感が大きい
設備のメンテナンス面
- 蓄電池は太陽光発電と連携して自動制御されるため、日常的な操作は不要
- 多くの製品で10年以上の長期保証がついている
導入コストは蓄電池の容量や機種によって異なりますが、一般的な家庭用(5~10kWh)で80万円~150万円程度です。自治体によっては補助金制度もあり、これらを活用することでコストを抑えられる場合もあります。
投資回収期間は通常10年前後と見られていますが、電気料金の上昇が続けば回収期間が短くなる可能性があります。また、停電対策としての安心感など、金銭では測れない価値も考慮する必要があるでしょう。
余剰電力の活用アイデア
太陽光発電の余剰電力を有効活用するアイデアはまだあります。以下にいくつかの選択肢を紹介します。
1. 電気自動車(EV)との連携
- EVを「走る蓄電池」として活用
- 昼間に充電し、夜間は車から家に電気を供給するV2H(Vehicle to Home)システム
- 災害時の非常用電源としても活用可能
2. スマートハウス化
- HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)の導入
- 電力使用状況の可視化と自動制御で効率的に電気を使用
- AI技術で家庭の電力消費パターンを学習し、最適な電力管理を実現
3. 時間帯別の家電利用シフト
- 太陽光発電が活発な昼間に電力を多く使う家電を使用
- 洗濯機・食洗機・掃除機などの使用時間を日中にシフト
- 電気温水器やエコキュートも太陽光発電の時間帯に稼働させる
これらの方法を組み合わせることで、卒FIT後も太陽光発電システムの価値を最大限に引き出すことができます。ライフスタイルや家族構成に合わせた最適な方法を検討してみましょう。
卒FIT後の税金と確定申告
卒FIT後は売電収入が減少しますが、税金面での対応も変わる可能性があります。売電収入と税金の関係について理解しておきましょう。
住宅用太陽光発電の売電収入は、一般的に「雑所得」として扱われます。雑所得の金額は「収入金額 - 必要経費」で計算され、主な必要経費としては以下が認められています。
- 減価償却費:太陽光発電設備の取得価額を耐用年数で割ったもの
- 修繕費:パネル清掃や軽微な修理費用
- 保険料:太陽光発電設備に関する保険料
- その他の経費:発電に関連する諸費用
確定申告が必要かどうかは以下の条件で決まります。
- 給与所得者(会社員など)の場合:売電による雑所得が年間20万円を超える場合に確定申告が必要
- 事業所得者(個人事業主など)の場合:所得金額に関わらず確定申告が必要
卒FIT後は売電単価が下がるため、多くの家庭では売電収入が20万円を下回り、確定申告が不要になるケースが増えています。ただし、自治体によっては所得に関わらず住民税の申告を求める場合があるため、お住まいの自治体の規定を確認することをお勧めします。
なお、10年間のFIT期間中に太陽光発電設備の減価償却が終わっている場合が多いため、卒FIT後は経費計上できる項目が少なくなる点にも注意が必要です。
よくある質問と回答
Q. 卒FIT後に何もしないとどうなりますか?
A. 特に手続きをしない場合、自動的に地域の電力会社(東京電力・関西電力など)との新しい買取契約に移行します。買取価格は7~8円/kWh程度に下がりますが、わざわざ手続きをする必要はありません。ただし、買取価格が低いため、別の選択肢を検討することをお勧めします。
Q. 自分の固定価格買取期間の満了時期はどうすればわかりますか?
A. 以下の方法で確認できます。
- 電力会社から届く「買取期間満了のお知らせ」で確認(満了約3ヶ月前に届きます)
- 太陽光発電の設置時の契約書で確認(設置日から10年間)
- 契約中の電力会社のカスタマーセンターに問い合わせる
Q. 蓄電池の導入費用に補助金はありますか?
A. 地域によって異なりますが、多くの自治体で蓄電池導入への補助金制度があります。金額は5~20万円程度が一般的です。また、国の補助金制度が実施されている年度もあります。詳細はお住まいの自治体のホームページや、蓄電池メーカーのWEBサイトで確認できます。
Q. 太陽光パネルの寿命はどれくらいですか?卒FIT後も使い続けられますか?
A. 一般的に太陽光パネルの寿命は25~30年程度と言われています。FIT期間(10年)が終わった後も、十分に発電能力は持続します。ただし、年数が経つにつれて少しずつ発電効率は低下します(年間0.5~1%程度)。パワーコンディショナー(パワコン)は10~15年程度で交換が必要になることが多いです。
Q. 卒FIT後、どの電力会社を選ぶのがお得ですか?
A. 一概には言えませんが、以下のポイントで比較するとよいでしょう。
- 買取価格(多くの場合、新電力やガス会社系が高い傾向)
- 契約条件(最低契約期間や解約金の有無)
- セット割引(同じ会社からガスや電気を購入する場合の割引)
- 会社の安定性(長期間安心して契約できるか)
まとめ:卒FIT後も太陽光発電を賢く活用しよう
卒FIT後は売電収入が大幅に減少しますが、太陽光発電システムの価値がなくなるわけではありません。むしろ、電気料金が高騰している現在、自分で発電した電気を上手に活用することで、より大きな経済的メリットを得られる可能性があります。
卒FIT後の選択肢をまとめると、
- 新たな買取事業者を探す:買取価格の高い新電力と契約する
- 蓄電池を導入する:余剰電力を貯めて夜間に使用し、電気代を節約する
- 電気の使い方を工夫する:発電量の多い時間帯に電気をたくさん使うようにシフトする
どの選択肢が最適かは、ご家庭の電気使用量や生活パターン、投資可能な金額によって異なります。専門家のアドバイスを受けながら、長期的な視点で判断することをお勧めします。