
太陽光発電を取り入れて10年ほど経つご家庭の中には、「卒FIT」と聞いて、今後どうすればいいのか不安に感じている方も多いかもしれません。
売電の価格が大きく下がるため、これまで通りの電力の使い方では収入が減ってしまう可能性があります。
そんな中、蓄電池の導入を一つの選択肢として考える方も出てきています。
この記事では、卒FITの概要から家庭への影響、今後の選択肢、蓄電池のメリット・デメリット、そして補助金情報までをわかりやすく解説します。
卒FITとは?
太陽光発電の売電価格に大きく関わる「卒FIT」。
本章では、FIT制度の概要や卒FITとはどのような状態を指すのかを解説します。
FIT制度とは?
FIT制度(固定価格買取制度)は、太陽光発電などの再生可能エネルギーで作った電気を、国が定めた価格で電力会社が一定期間買い取る仕組みです。
家庭用の太陽光発電では、認定を受けた年の売電価格が10年間固定され、その間は同じ価格で電気を売ることができます。
たとえば、2014年に売電を始めた家庭は、2024年までは1kWhあたり37円で売電することができました。
ただし、この買取価格は毎年見直されており、新たに認定を受ける場合は、その年に定められた価格が適用されます。
売電価格があらかじめ決まっていることで、太陽光発電を導入した家庭は安心して発電設備の費用を回収できます。
つまり、FIT制度とは、発電した電気を一定期間・一定価格で買い取ってもらえる制度であり、家庭の売電収入に直接関わる重要な仕組みです。
卒FITとは?
売電を始めてから10年が経過すると、FIT制度による買い取り期間が終了します。
このように、FIT制度での買取保証が終了した状態を「卒FIT」と呼びます。
現在、毎年多くの家庭が順次、卒FITを迎えています。
卒FIT後は、それまでのような高い価格で電気を売ることができなくなります。
そのため、卒FITを迎えると売電収入が減る可能性があり、これからの電力の使い方や売り先について見直す必要があります。
卒FITするとどんな変化がある?
本章では、卒FIT後の売電価格の変化が家庭にどのような影響を及ぼすのかをわかりやすく解説します。
売電価格が大幅に下がる
卒FITを迎えると、電力会社への売電は引き続き可能ですが、売電価格が大幅に下がります。
たとえば、2012年に太陽光発電を導入した家庭では、FIT制度期間中は1kWhあたり42円で売電できていたものが、卒FIT後は約8円程度にまで下がることもあります。
これはおよそ5分の1の価格であり、売電収入に大きな影響を与えます。
このような変化により、これまで売電で得られていた収入が減ってしまうことへの不安を感じる方も少なくありません。
今後は、これまでのスタイルを見直し、家庭ごとにこれからの電力の使い方を改めて考えていくことが求められます。
卒FIT後の3つの選択肢
今後も太陽光を活用していくためには、どのように電気を使うかを考える必要があります。
本章では、卒FIT後の太陽光発電の活用方法として、3つの選択肢を解説します。
同じ電力会社に売電を続ける
もっとも手軽な方法は、現在契約している電力会社にそのまま売電を続けることです。
多くの電力会社では、卒FIT後も電気を買い取るための新しいプランを用意しています。
手続きを行えば自動的に新しいプランへ切り替わるケースも多く、手間がかかりません。
ただし、売電価格はFIT期間中よりも大きく下がる傾向があります。そのため、以前のような収入は期待できません。
それでも、少しでも売電収入があることや、契約の変更が不要な点は大きなメリットです。
売電を継続したいけれど難しい手続きは避けたい人に向いています。
売電先の電力会社を変更する
次に考えられるのは、売電先の電力会社を見直すことです。
現在は電力の自由化が進み、多くの新しい電力会社(新電力)が太陽光の売電を受け入れています。
中には、大手電力会社よりも高い価格で電気を買い取ってくれる会社もあります。
たとえば、ガソリンスタンドを運営するENEOSや、積水ハウスやヘーベルハウスなどの住宅メーカーなどが独自のプランを提供しています。
ただし、契約内容は会社ごとに異なります。
売電価格だけでなく、契約期間や解約時のルール、サポート体制なども事前によく確認することが大切です。
条件に合った会社を選べば、売電収入を少しでも高く保つことができる可能性があります。
情報を比較して、自分の家庭に合う会社を見つけましょう。
蓄電池を導入して自家消費に切り替える
発電した電気を売らずに、蓄電池に貯めておき、自宅で使用する「自家消費」も、有力な選択肢の一つです。
現在、電力会社に売る電気の価格は1kWhあたりおよそ8〜12円ですが、購入する電気の価格は1kWhあたり約31円です。
つまり、発電した電気を売るよりも自分で使った方が、1kWhあたり19円以上もお得になる計算です。
この価格差を考えると、電気を売るよりも自分で使った方が経済的に有利です。
また、電力会社の契約や手続きに関する負担が減る点も、自家消費の魅力です。
このように、蓄電池を活用して自宅で発電した電気を効率よく使うことで、売電に頼らず、家計を安定させる方法もあります。
蓄電池導入のメリット
蓄電池を導入すると、日々の暮らしや万が一のときに役立つさまざまな使い方が可能になります。
本章では、家庭に蓄電池を取り入れることで得られる、2つのメリットを紹介します。
電気代の節約になる
まず、蓄電池を導入することで、家庭の電気代を大きく抑えることができます。
その理由は、昼間に発電した太陽光の電気を蓄電池に貯めておき、電気料金が高くなる夜間に使えるようになるからです。
電気を「売る」のではなく「自分で使う」ことで、経済的なメリットが高まります。
たとえば、昼間に太陽光で発電した電気を蓄電池にためておき、夜にエアコンや照明、家電などで活用すれば、その分だけ電力会社から電気を買う必要がなくなります。
電気料金が上昇傾向にある今、家庭のエネルギーコストを下げる手段として、蓄電池の活用は非常に効果的です。
災害時の非常用電源として活用できる
蓄電池があれば、災害による停電の際にも、家庭で電気を使うことができます。
蓄電池が日常的に電気をためておけるため、電力供給がストップしても、あらかじめ蓄えていた電気で家電を動かせるからです。
たとえば地震や台風などで停電したとき、冷蔵庫が止まって食品が腐ってしまったり、スマートフォンが充電できず連絡が取れなくなったりすることがあります。
また、夏の猛暑や冬の寒波では、エアコンが使えないことが命に関わる問題になることもあります。
蓄電池があれば、災害時でも電気を使用することができ、こうしたトラブルに備えることができます。
災害が多い日本では、いざというときの備えとして、家庭に蓄電池を設置することが非常に心強い対策になります。
蓄電池導入のデメリット・注意点
蓄電池には、導入前に確認しておきたい注意点もいくつかあります。
本章では主に3つのポイントを紹介します。
初期費用の負担がある
蓄電池の導入には、まとまった初期費用がかかります。
多くの場合、蓄電池本体だけでなく、設置や電気工事にかかる費用も加算されます。
そのため、合計で100万円を超えることも珍しくありません。
費用を回収するには、長期間続けることが必要です。
すぐに元が取れるわけではないため、予算に余裕があるかどうか、慎重に判断することが大切です。
対策としては、国や自治体による補助金制度を利用することで、導入時の金額を減らすことが可能です。
複数の業者から見積もりを取り、コストとサービス内容を比較検討すると安心です。
設置スペースを確保する必要がある
家庭用蓄電池は小型化が進んでいますが、それでもある程度のスペースを確保する必要があります。
たとえば、多くの機種はエアコンの室外機と同じくらいの大きさがあるため、設置場所を事前にしっかり考えておきましょう。
設置環境も重要で、直射日光を避け、高温や湿気の少ない場所を選ぶ必要があります。
不適切な場所に設置すると、機器の寿命が短くなったり、トラブルが起きたりする可能性があります。
購入前には、メーカーや販売店に相談し、設置に適した場所を確認しておくと安心です。
充電できる回数に限りがある
蓄電池には寿命があり、これは充電と放電を繰り返す「サイクル回数」によって決まります。
多くの家庭用蓄電池は、約10年から15年ほど使用できる設計になっています。
太陽光発電の寿命が20〜30年とされる中、蓄電池は途中で交換が必要になるケースがほとんどです。
そのため、導入時にはサイクル数の多い蓄電池を選ぶことがポイントです。
設置環境や使用状況によっては劣化が早まることもあるため、事前に製品の寿命や交換費用についても確認しておくことが大切です。
蓄電池導入に活用できる補助金制度
蓄電池の導入にはまとまった費用がかかるため、少しでも負担を軽くする方法を知っておくことが大切です。
本章では、蓄電池の導入時に活用できる主な補助金制度を紹介します。
子育てエコすまい支援事業
子育てエコホーム支援事業は、物価の上昇で負担が大きくなりやすい子育て世帯や、若い夫婦のために、省エネ性能の高い新築住宅の購入やリフォームをサポートする制度です。
ただし、蓄電池の導入に関しては、年齢や家族構成にかかわらず、すべての世帯が補助金の対象となります。
そのため、子育て世帯以外でも蓄電池を導入する場合は、この制度を活用することができます。
DR補助金
DR補助金とは、国や地域で電力が不足しそうな際に、自宅の蓄電池を活用して電力のバランス調整に協力することで、補助金を受け取れる制度です。
これにより、ピーク時の電力消費を減らし、効率的なエネルギー利用が促進されます。
それぞれの補助金の特徴
ここからは、それぞれの補助金の内容を表にまとめて紹介します。
補助金の名称 | 補助金額 | 対象の蓄電池 | 注意点 |
子育てエコすまい支援事業 | 定額64,000円 | 環境共創イニシアチブ
| 申請は、販売事業者(申請代行者)を通じて行う必要があります。個人での直接申請はできません。 |
DR補助金 | 37,000円/kWh 上限60万円 | 環境共創イニシアチブ (SII)登録製品 | 蓄電池を販売・設置する業者が、あらかじめ国に登録されている必要があります。 そのため、すべての業者で補助金が使えるわけではない点に注意しましょう。 |
これらの補助金制度を活用することで、蓄電池の導入費用を大きく抑えることができます。
また、国の制度だけでなく、お住まいの地域の自治体でも独自の補助金を設けている場合があります。
蓄電池の導入を検討する際は、自治体のホームページなどで最新の情報を確認してみましょう。
まとめ
卒FITを迎えると売電価格が大幅に下がり、多くの家庭で電気の使い方を見直す必要が出てきます。
その中で注目されているのが、蓄電池を導入して電気を自家消費するという方法です。
蓄電池は電気代の節約や非常時の備えになる一方、導入には費用やスペースの確保など注意点もあります。
しかし、補助金を上手に活用すれば導入費用の負担を軽くできる可能性があります。
卒FITをきっかけに、これからの暮らしに合った電気の使い方を考えてみてはいかがでしょうか。