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卒FITとは?放置するとどうなるのか

太陽光発電の固定価格買取制度(FIT制度)は、再生可能エネルギーの普及を目的に始まった制度です。この制度では、太陽光発電で作った電気を一定期間、決められた高い価格で電力会社が買い取ることが義務付けられていました。しかし、この買取期間(一般家庭の太陽光発電では10年間)が終了すると「卒FIT」と呼ばれる状態になります。

卒FITを迎えた後、何も対策を取らずに放置するとどうなるのでしょうか?

FIT期間中は電力会社に買取義務がありましたが、卒FIT後はその義務がなくなります。そのため、新たに売電契約を結ばないままだと、余剰電力は「一般送配電事業者」によって無償で引き取られることになります。つまり、せっかく発電した電気をタダ同然で電力網に垂れ流すことになり、経済的な損失が発生します。

具体的な損失額を見てみましょう。例えば卒FIT後の標準的な買取単価である8.5円/kWhで年間3,150kWhを売電できる一般家庭の場合、年間約26,775円の収入が得られるはずです。これを放棄することになるため、10年間で考えると約26万円以上もの損失となります。

さらに、卒FIT後も太陽光発電システムのメンテナンス費用やパワーコンディショナー交換の積立などは必要です。本来ならこれらの費用を売電収入で賄えるはずが、それも困難になります。

放置すると起こる具体的なリスク

卒FIT後に何も対策を取らない場合、以下のようなリスクが考えられます。

経済的損失

  • 売電収入がゼロになる(年間約2〜3万円の損失)
  • 発電した余剰電力の価値を完全に失う
  • 10年間で見ると20万円以上の逸失利益となる

設備維持の問題

  • メンテナンス費用を売電収入で賄えなくなる
  • パワーコンディショナーの交換費用(約15〜20万円)の捻出が困難に
  • 設備の点検や清掃の意欲が低下し、発電効率の低下を招く

その他のリスク

  • 発電設備としての資産価値が低下する
  • 売電メーターの交換や更新が必要な場合、対応が遅れる可能性
  • 将来的な補助金や優遇制度を受けられない可能性

このように、「何もしない」という選択は実質的に「損をする」という選択になります。太陽光発電設備はすでに投資済みなので、少しでもリターンを得るための対策を取ることが重要です。

卒FIT後の選択肢を知ろう

卒FITを迎えた後の主な選択肢には、以下のようなものがあります。それぞれの特徴を理解して、自分に合った方法を選びましょう。

①大手電力会社と契約継続

これまで売電していた地域の大手電力会社(東京電力や関西電力など)と新たな契約を結び、引き続き余剰電力を売る方法です。手続きが簡単で、多くの場合は特に申し込みをしなくても自動的に卒FIT後のプランに移行します。安心感はありますが、買取価格は7〜9円/kWh程度と低めです。

②新電力会社に乗り換え

電力自由化で参入した新電力(丸紅新電力、ENEOSでんきなど)と契約する方法です。大手電力より高い買取価格(10〜13円/kWh程度)を提示している会社も多く、収入アップが期待できます。ただし、契約条件や対応エリアの制限があることもあるため、よく確認が必要です。

③自家消費に切り替え

発電した電気をできるだけ自宅で使い切る方法です。太陽光発電が多い昼間に家電製品をまとめて使うなど、生活パターンを工夫します。売電単価(7〜10円/kWh)よりも購入電気代(25〜30円/kWh程度)の方が高いため、自家消費を増やした方が経済的です。

④蓄電池導入

蓄電池を設置して、余剰電力を貯めて夜間に使う方法です。自家消費率を大幅に高められる上、停電対策にもなります。ただし初期費用が高額(100万円以上)なため、補助金などを活用する必要があります。

⑤何もしない(放置)

何の手続きもせずに放置する選択肢です。先述のように、余剰電力が無償で引き取られるため、経済的には最も不利な選択になります。

多くの家庭では、①か②の選択肢を基本としつつ、③の自家消費を増やす工夫を組み合わせるのが現実的でしょう。④の蓄電池導入は初期費用と回収期間を考慮して判断する必要があります。⑤の放置は避けるべき選択肢です。

大手電力会社と新電力会社の比較

卒FIT後の売電先として大手電力会社と新電力会社を比較してみましょう。

大手電力会社のメリット

  • 手続きが簡単(多くの場合、自動的に卒FIT後プランに移行)
  • 長年の実績があり、安心感がある
  • 契約条件がシンプルでわかりやすい

大手電力会社のデメリット

  • 買取価格が低め(7〜9円/kWh程度)
  • 付加サービスが少ない
  • プラン選択の幅が限られている

新電力会社のメリット

  • 買取価格が高めのケースが多い(10〜13円/kWh程度も)
  • 電気購入とセットで特典がある場合も
  • ポイント還元など多様なサービスがある

新電力会社のデメリット

  • 契約条件をよく確認する必要がある
  • 対応エリアの制限がある場合も
  • 将来的な価格変更や事業撤退のリスクがゼロではない

主な会社の買取価格の例(2025年3月時点、地域により異なる場合があります)

会社名買取価格(税込)特徴
東京電力8.5円/kWh自動移行、仮想蓄電サービスあり
関西電力8.0円/kWh自動移行、貯めトクサービスあり
九州電力7.0円/kWh自動移行、シンプルな買取
丸紅新電力11〜13円/kWh売電契約のみOK、手続き簡単
ENEOSでんき10〜11円/kWh売電契約のみOK、広域対応
出光昭和シェル9.5〜11.5円/kWh電気契約セットで単価アップ

地域や契約条件によって買取価格や特典は大きく異なりますので、複数の会社を比較検討することをおすすめします。

最低限やるべき対応とは

卒FIT後に放置するリスクを避けるため、最低限やるべき対応について説明します。

何よりもまず重要なのは、何らかの売電契約を結ぶことです。売電単価が低くても、無収入よりはマシです。多くの大手電力会社では「特段の申し出がなければ自動で当社買取プランに移行」する措置を取っていますので、とりあえずそのままでも最低限の収入は確保できます。

例えば中国電力の場合、FIT満了後に申し込みがなければ自動的に7.15円/kWh(税込)の買取プランに移行します。他の電力会社も同様に、7〜9円/kWh程度での自動移行プランを用意しています。

この自動移行を活用すれば、とりあえず余剰電力を無駄にすることなく、最低限の収入を得ることができます。その後、時間に余裕ができたら、より条件の良い新電力会社への切り替えを検討するとよいでしょう。

また、FIT満了の通知が届いたら、必ず内容を確認し、保管しておきましょう。この通知には満了日や現在の契約情報など、今後の手続きに必要な情報が記載されています。通常は満了の4〜6か月前に通知が届きます。

「忙しくて手続きする時間がない」「どこを選べばいいかわからない」という場合でも、放置するよりは現在の電力会社の自動移行プランを活用するだけでも、年間2〜3万円の収入が得られます。最低限これだけはやっておきましょう。

売電契約の基本的な手続き方法

売電契約の手続き方法はシンプルで、特に難しいものではありません。基本的な流れを説明します。

①必要書類の準備

  • 買取期間満了通知書(電力会社から届いたもの)
  • 現在の電力の「受給地点特定番号」(22桁の番号、検針票に記載)
  • お客様番号
  • 本人確認書類(運転免許証など)
  • 銀行口座情報(売電料金の振込先)

②希望する売電先の選定 事前に各社の買取価格やサービス内容を比較し、自宅のエリアで利用可能な電力会社を選びます。大手電力会社なら電話一本で手続きできることが多く、新電力も多くはWebサイトから簡単に申し込めます。

③申し込み手続き 選んだ電力会社の指定する方法で申し込みます。

  • Web申込:公式サイトの申込フォームに必要事項を入力
  • 電話申込:カスタマーセンターに電話をかけ、オペレーターの案内に従う
  • 郵送申込:必要書類を記入して返送(一部の会社のみ)

④契約完了と売電開始 申込から約1か月程度で手続きが完了し、新しい契約での売電が始まります。特別な工事は基本的に不要です(すでにスマートメーターが設置されている場合)。

多くの場合、自分で旧契約の解約連絡をする必要はありません。新しい売電先に申し込むと、自動的に情報が連携され、切り替わります。

手続きは思ったより簡単ですので、ぜひ検討してみてください。不明点があれば、各電力会社のカスタマーサポートに問い合わせれば丁寧に教えてくれます。

自家消費を増やすための工夫

売電単価が下がった卒FIT後は、発電した電気をできるだけ自宅で使う「自家消費」を増やすことも重要な対策です。売電して7〜10円/kWhで売るよりも、25〜30円/kWhの電気を購入せずに済ませる方が、経済的なメリットが大きいからです。

以下に、自家消費を増やすための工夫をいくつか紹介します。

家電の使用時間を太陽光発電の多い時間帯にシフト

  • 洗濯機や食器洗い機は昼間の時間帯に使用する
  • 掃除機やアイロンなどの電力消費の大きい家電は晴れた日中に使う
  • エアコンは昼間に部屋を多めに冷やしておき、夜間の使用を抑える

電気で温水を作る機器の活用

  • エコキュート(電気温水器)がある場合は、沸き上げ時間を昼間に設定する
  • 電気ケトルやポットは昼間に使用し、保温機能で夜まで持たせる

在宅時間の活用

  • 在宅勤務の日は、積極的に電気を使う作業を昼間に行う
  • パソコンやタブレットの充電は昼間に済ませておく
  • 電子レンジや電気調理器具を使った昼食づくりを心がける

季節に応じた工夫

  • 冬場は昼間に部屋を暖めておき、熱を蓄える
  • 夏場は扇風機や冷風機を活用して電力消費を分散させる
  • 春秋は発電量と電力消費のバランスを考え、無理のない範囲で調整する

これらの工夫を取り入れることで、少しずつ自家消費率を高めることができます。ただし、無理な生活スタイルの変更は続きませんので、できる範囲で取り組むことが大切です。家族全員が協力できるよう、「昼間の電気はタダ同然」という意識を共有するとよいでしょう。

蓄電池導入は選択肢になるか

卒FIT後の対策として注目されているのが蓄電池の導入です。蓄電池があれば、昼間の余剰電力を貯めて夜間に使用できるため、自家消費率を大幅に高めることができます。ただし、初期費用が高額なため、慎重な検討が必要です。

蓄電池導入のメリット

  • 自家消費率の大幅アップ(30〜40%→70〜80%程度に)
  • 昼間の余剰電力を無駄にせず有効活用できる
  • 夜間の電気代を削減できる
  • 停電時にも電気が使える安心感
  • 将来的な電気料金値上げに対する保険になる

蓄電池導入のデメリット

  • 初期費用が高額(容量にもよりますが100〜200万円程度)
  • 投資回収に時間がかかる(10年以上かかるケースも)
  • 蓄電池自体の寿命(10〜15年程度)を考慮する必要がある
  • 設置スペースが必要

蓄電池導入の経済性を考える際のポイントは、「売電と購入電気の価格差」です。例えば、売電価格が8円/kWhで購入電気が30円/kWhなら、その差額22円/kWhが蓄電池導入のメリットになります。年間の余剰電力量が3,000kWhなら、理論上は年間66,000円の節約になります(実際は蓄電池のロスなどがあるため、これより少なくなります)。

また、初期費用を抑えるために、国や自治体の補助金制度を活用することも検討すべきです。地域によっては数十万円の補助が受けられる場合もあります。

蓄電池の選び方のポイントは以下の通りです:

  • 必要な容量(一般家庭なら5〜8kWh程度が多い)
  • メーカーの信頼性と保証期間
  • 充放電効率(90%以上が望ましい)
  • 設置スペースとの兼ね合い

蓄電池は大きな投資になりますので、複数のメーカーの見積もりを取り、比較検討することをおすすめします。また、最近は月額料金制の蓄電池サービスも登場していますので、初期費用を抑えたい場合はそういったサービスも検討価値があります。

卒FIT後の収支シミュレーション

卒FIT後の各選択肢について、具体的な収支シミュレーションを見てみましょう。ここでは一般的な住宅用太陽光発電システム(4kW)を想定し、年間発電量5,000kWh、自家消費率40%(余剰電力3,000kWh)のケースで計算します。

①放置した場合

  • 余剰電力収入:0円(無償引取り)
  • 自家消費による節約:40,000円(2,000kWh×20円)
  • 年間収支:40,000円

②大手電力会社と契約した場合

  • 余剰電力収入:24,000円(3,000kWh×8円)
  • 自家消費による節約:40,000円(2,000kWh×20円)
  • 年間収支:64,000円

③新電力会社と契約した場合

  • 余剰電力収入:33,000円(3,000kWh×11円)
  • 自家消費による節約:40,000円(2,000kWh×20円)
  • 年間収支:73,000円

④自家消費率を60%に高めた場合(大手電力契約)

  • 余剰電力収入:16,000円(2,000kWh×8円)
  • 自家消費による節約:60,000円(3,000kWh×20円)
  • 年間収支:76,000円

⑤蓄電池導入で自家消費率を80%に高めた場合

  • 余剰電力収入:8,000円(1,000kWh×8円)
  • 自家消費による節約:80,000円(4,000kWh×20円)
  • 年間収支:88,000円
  • ただし、蓄電池の初期費用(100万円と仮定)÷年間メリット増(88,000円-64,000円=24,000円)≒42年
  • 補助金や電気代上昇を考慮しても、投資回収は難しい可能性がある

このシミュレーションから、最も手軽で収支改善が期待できるのは「新電力会社への切り替え」と「自家消費率の向上」の組み合わせであることがわかります。蓄電池は収支面だけでなく、停電対策や将来の電気代高騰への備えという面でのメリットも考慮して判断するといいでしょう。

実際の収支は、お住まいの地域や電気料金プラン、発電量、自家消費率によって大きく変わりますので、ご自身の状況に合わせて計算してみることをおすすめします。

まとめ:必ず対策を取ろう

卒FIT後に何も対策を取らずに放置することは、経済的に大きな損失を招きます。これまで見てきたように、余剰電力がただ同然で電力網に流れてしまい、本来得られるはずの収入を失うことになります。

最低限の対策として、以下のポイントを押さえておきましょう。

最低限やるべきこと

  • FIT満了通知が届いたら内容を確認し、保管する
  • 何らかの売電契約を結ぶ(自動移行でもOK)
  • 可能な範囲で自家消費を増やす工夫をする

さらに検討したいこと

  • 複数の電力会社の買取条件を比較し、より高い買取価格を提示している会社に切り替える
  • 昼間の電力使用を意識的に増やし、自家消費率を高める
  • 経済性と停電対策を考慮して、蓄電池導入を検討する

卒FITは「終わり」ではなく、太陽光発電システムの新たな活用方法を考える「始まり」です。設備はすでに投資済みであり、まだまだ発電能力があります。その価値を最大限に活かすためにも、放置せずに適切な対策を取りましょう。

電力業界は日々変化しており、新しいプランやサービスも随時登場しています。定期的に情報をアップデートし、自分に最適な選択肢を選び続けることが大切です。これからも太陽光発電システムを有効活用して、電気代の節約と環境への貢献を続けていきましょう。

 

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