
太陽光発電で売電していた多くの方が直面する「卒FIT」問題。この記事では、FIT制度の成り立ちから現在の状況まで、時系列でわかりやすく解説します。制度の変遷を知ることで、これからの太陽光発電の活用方法を考える参考にしてください。
FIT制度とは?固定価格買取制度の基本
FIT制度(固定価格買取制度)は、再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が国の定めた価格で一定期間買い取ることを義務付けた制度です。
この制度では、太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスなどの再生可能エネルギーで発電した電気が対象となります。FIT制度の主な特徴は以下の3点です。
- 固定価格での買取: 再エネ電気を一定期間、決められた価格で買い取る
- 買取期間の保証: 住宅用太陽光は10年間、事業用は20年間の買取を保証
- 買取費用の分担: 買取費用は電気利用者全体で負担する「再エネ賦課金」として電気料金に上乗せ
この仕組みにより、高額な初期投資が必要な太陽光発電でも、長期的な収入が見込めるようになり、導入が進みました。
FIT制度が導入された背景
FIT制度が導入された背景には、主に3つの社会的要因がありました。
- エネルギー自給率の向上: 日本のエネルギー自給率は当時約8%と先進国の中でも最低水準でした。再エネ普及は国産エネルギーの拡大につながります。
- 脱炭素社会の実現: 地球温暖化対策として、CO2を排出しない再生可能エネルギーの普及が世界的に求められていました。
- 東日本大震災後のエネルギー政策転換: 2011年の東日本大震災と原発事故を受け、原子力発電への依存度を下げる必要性が高まりました。
これらの背景から、日本政府は再生可能エネルギーの普及を加速させるために、2012年に本格的なFIT制度をスタートさせたのです。
日本のFIT制度の歴史
日本における再生可能エネルギー政策は段階的に発展してきました。
まず2000年代には「RPS制度」が実施されていました。これは電力会社に対して、販売電力量の一定割合を再生可能エネルギーで賄うことを義務付ける制度でしたが、大きな普及には至りませんでした。
その後、2009年11月には「太陽光発電の余剰電力買取制度」が始まります。これは家庭の太陽光発電で余った電気を固定価格で買い取る制度で、FIT制度の前身とも言えるものでした。
そして2012年7月、現行の「再生可能エネルギー特別措置法」に基づく本格的なFIT制度がスタートします。これにより、太陽光発電だけでなく、風力、水力、地熱、バイオマスなど幅広い再エネ電源が対象となりました。
2012年のFIT制度スタート
2012年7月にスタートしたFIT制度は、再エネ普及を加速させるため、高い買取価格が設定されました。
住宅用太陽光発電(10kW未満)の買取価格は42円/kWh(税込)、買取期間は10年間でした。また、事業用太陽光(10kW以上)は40円/kWh(税抜)で20年間の買取が保証されました。
この高い買取価格により、短期間で太陽光発電の導入が急増しました。FIT開始前に約5GW程度だった太陽光発電の設備容量は、わずか5年後の2017年には約39GWまで拡大したのです。
当時は「投資として太陽光発電を設置すれば必ず儲かる」と言われ、多くの家庭や企業が太陽光発電を導入しました。高い買取価格と10年間の保証があったため、設備投資の回収も比較的早く実現できる計算でした。
2017年のFIT法改正
急速な太陽光発電の普及は、一方で様々な問題も引き起こしました。特に以下の2点が大きな課題となりました。
- 未稼働案件の増加: 認定だけ受けて実際には設備を作らない「未稼働案件」が増加
- 国民負担の急増: 再エネ賦課金という形で電気料金に上乗せされる国民負担が増大
これらの問題に対応するため、2017年4月にFIT法の大幅な改正が行われました。主な改正点は以下の通りです。
- 事業計画認定制度の導入: 発電設備ごとに適切な事業計画の提出・認定を義務付け
- 入札制度の導入: 大規模太陽光の買取価格を競争入札で決定する仕組みを導入
- 未稼働案件の認定失効ルール: 一定期間内に運転開始しない案件の認定を失効
- 発電事業者の遵守事項明確化: 安全性確保や地域との共生などの責任を明確化
この改正により、より持続可能なFIT制度へと軌道修正が図られました。「誰でも簡単に太陽光発電で儲かる」という状況から、「責任ある事業者」だけが参入できる制度設計へと変化したのです。
FIT制度から新制度への移行
FIT制度により再エネ導入は大きく進みましたが、課題も明らかになりました。特に大きな問題は、再エネ賦課金による国民負担の増大です。
2017年度時点で、再エネ賦課金は家庭向け電気料金の約1割、産業用では14%にまで達し、国全体では年間数兆円規模の負担となっていました。
再エネのさらなる普及を図りつつも、国民負担を抑制するため、政府は市場原理を活用した新たな制度の導入を決定します。
2022年からのFIP制度導入
2022年4月から、FIT制度に加えて「FIP制度」(フィード・イン・プレミアム)が導入されました。
FIP制度の特徴は以下の通りです。
- 市場連動型の価格設定: 発電した電気を市場で取引し、市場価格に一定のプレミアム(上乗せ分)を加えた収入を得る仕組み
- 市場統合の促進: 再エネ発電事業者も市場価格に応じた発電行動を取るよう促す
- 国民負担の抑制: 市場価格が高い時にはプレミアムが低くなり、国民負担を軽減
FIP制度は一定規模以上の再エネ設備が対象で、住宅用太陽光などの小規模設備は引き続きFIT制度が適用されています。しかし、将来的にはより多くの再エネ電源がFIP制度に移行していく方針です。
この制度は、再エネの「保護育成」から「自立・市場統合」へと政策の軸足が移ったことを示しています。再エネが特別な電源ではなく、電力市場の中で競争力を持つ「主力電源」となることを目指しているのです。
買取価格の推移
FIT制度開始以来、買取価格(売電単価)は毎年引き下げられてきました。これは太陽光発電などの設備コストが低下したことに対応したものです。
太陽光発電の買取価格推移
住宅用太陽光発電(10kW未満)の買取価格の推移を見てみましょう。
年度 | 住宅用太陽光買取価格(円/kWh) | 事業用太陽光買取価格(円/kWh) | 主な制度変更 |
---|---|---|---|
2012 | 42 | 40 | FIT制度スタート |
2013 | 38 | 36 | - |
2014 | 37 | 32 | - |
2015 | 33-35 | 27-29 | - |
2016 | 31 | 24 | - |
2017 | 28 | 21 | FIT法改正(事業計画認定制度・入札制導入) |
2018 | 26 | 18 | - |
2019 | 24 | 14 | - |
2020 | 21 | 12 | 再エネ特措法再改正 |
2021 | 19 | 11 | - |
2022 | 17 | 10 | FIP制度開始 |
2023 | 16 | 9 | - |
2024 | 16 | 8-9 | - |
このように、わずか10年間で買取価格は当初の半分以下にまで下がっています。
また、事業用太陽光(10kW以上)についても同様に買取価格は低下し、2020年度以降は大規模案件について入札制(オークション)が導入され、一部では10円/kWh以下という低価格での契約も成立しています。
買取価格の低下は、太陽光発電のコスト低減に合わせたものですが、早い時期に設置した方と後から設置した方で売電収入に大きな差が生じることになりました。
卒FITとは
「卒FIT」とは、FIT制度による固定価格での買取期間が終了した状態を指す言葉です。
住宅用太陽光発電の買取期間は10年間と定められているため、2012年度にFIT制度でスタートした住宅用太陽光発電は2022年度に、2013年度に設置したものは2023年度に、順次「卒FIT」を迎えることになります。
FIT買取期間が終了すると、それまでの固定価格での買取が終了し、電力会社との新たな契約が必要になります。多くの場合、卒FIT後の買取価格はFIT期間中より大幅に低くなります。
例えば、FIT期間中に42円/kWhで売電していた場合、卒FIT後は電力会社によって異なりますが、多くの地域電力会社で7〜9円/kWh程度、一部の新電力でも10〜12円/kWh程度の買取価格が提示されています。
つまり、卒FIT後は売電単価が1/4〜1/5程度に下がるため、売電収入が大幅に減少することになります。
卒FIT後の選択肢
卒FIT後には、主に以下の選択肢があります。
- 売電を続ける
- 地域電力会社や新電力と新たな売電契約を結ぶ
- 買取価格は会社によって異なるため、比較検討が必要
- 手続きは比較的簡単で、追加投資は不要
- 自家消費を増やす
- 蓄電池を導入して自家消費率を高める
- 売電単価(7〜12円/kWh)より購入単価(25〜30円/kWh程度)の方が高いため、経済的メリットがある
- 初期投資が必要だが、長期的に見れば電気代節約につながる
- V2H(Vehicle to Home)を活用
- 電気自動車と自宅をつなぐシステムを導入
- 車を「動く蓄電池」として活用できる
- 電気自動車の普及と合わせて注目される選択肢
卒FIT後の対応は、各家庭の電気の使い方や予算によって最適な選択が異なります。自家消費を増やす方向は電気代節約にもつながり、近年の電気料金高騰もあって注目されています。
日本と世界のFIT制度比較
FIT制度は日本独自のものではなく、世界各国で導入されてきました。特にドイツは日本よりも早くFIT制度を導入し、その経験が日本のFIT制度設計にも影響を与えています。
ドイツは2000年に再生可能エネルギー法(EEG)に基づくFIT制度を開始し、太陽光や風力発電の導入を急速に拡大させました。現在では電力の約40%以上を再生可能エネルギーが占めるまでになっています。
しかし、ドイツも日本と同様に「再エネ賦課金の増大」という課題に直面し、以下のような対応を行ってきました。
- 買取価格の段階的引き下げ: 太陽光・風力のFIT単価を大幅に減額
- 毎月の減額ルール: 太陽光のFIT価格を導入量に応じて毎月見直す仕組み
- FIP制度の導入: 市場連動型のプレミアム支払い制度を導入
- 入札制度への移行: 一定規模以上の案件はオークションで支援価格を決定
こうした世界の動向も参考にしながら、日本も前述のように入札制やFIP制度の導入など、市場メカニズムを活用した再エネ普及策へとシフトしてきました。
日本の場合、ドイツと比べて制度の導入は遅れましたが、後発の利点を活かして制度の欠点を補うような制度設計が行われました。今後も世界の動向を踏まえつつ、国民負担の抑制と再エネ主力電源化の両立を目指した制度改善が続けられる見込みです。
FIT制度は日本の再生可能エネルギー普及に大きく貢献し、多くの家庭に太陽光発電をもたらしました。制度開始から10年以上が経過し、初期に設置した方々はすでに「卒FIT」を迎えています。
卒FIT後も太陽光発電設備は発電を続けますので、適切な選択肢を検討して、大切な資産を有効活用していきましょう。売電収入が減少しても、自家消費を増やすことで電気代節約というメリットを得ることができます。
これからも太陽光発電とうまく付き合っていくためには、制度の変遷を理解し、自分に合った活用方法を選ぶことが大切です。