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太陽光発電で作った電気を電力会社に売らず、すべて自分で使う「完全自家消費」システム。卒FITを迎えた方や新規で太陽光を導入する方に注目されているこの方式について、仕組みからメリット、必要な機器、コストまで徹底解説します。

完全自家消費とは?基本的な仕組みを理解しよう

完全自家消費とは、太陽光発電で作った電気をすべて自分の建物内で使い切り、電力会社に売電しない(逆潮流させない)システムです。通常の太陽光発電では、発電量が使用量を上回ると余った電気は自動的に電力会社に売電されますが、完全自家消費では発電した電気が敷地外に流出しないように制御します。

このシステムでは、建物内の電力消費量を常に監視し、太陽光発電の出力を消費電力に合わせて調整します。例えば建物で1kWの電力を使っている時は、太陽光パネルが5kW分の発電能力があっても、パワーコンディショナが出力を1kWに抑え、余分な発電をしないようコントロールします。

完全自家消費が注目される背景には、卒FITによる買取価格の低下があります。かつて1kWhあたり42円で買い取られていた住宅用太陽光発電の電気も、10年経過後は7〜8円程度まで下がります。一方で、私たちが電力会社から購入する電気は1kWhあたり約30円前後。この差を考えると、売るより自分で使った方がお得なのです。

なぜいま完全自家消費が選ばれているのか

完全自家消費が選ばれる理由はいくつかあります。

  • 経済的メリット: 売電価格の低下により、発電した電気を自家消費する方が経済的に有利になっています
  • 系統連系の制約回避: 電力会社の系統接続の制約(逆潮流の制限など)を気にせず設置できる
  • 設備認定や複雑な手続き不要: 売電しないため、FIT/FIPの認定申請や電力会社との協議が簡素化される
  • CO2削減・環境貢献: 自家消費することで実質的な再エネ比率を高め、カーボンニュートラルに貢献

特に企業や工場などでは、環境負荷低減の取り組みとして完全自家消費型のシステムを導入するケースが増えています。また、災害時の電源確保といったBCP対策としても評価されています。

完全自家消費システムに必要な機器と選び方

完全自家消費システムを構築するには、特殊な機器が必要です。通常の太陽光発電システムとの違いを理解しましょう。

専用パワーコンディショナの特徴

完全自家消費システムの中心となるのが「完全自家消費専用パワーコンディショナ」です。一般的なパワコンとの主な違いは以下の点です。

  • 高速・高精度負荷追従機能: 建物の電力消費量をリアルタイムで検知し、発電量を自動調整
  • 逆潮流防止機能: 発電量が消費量を上回る場合でも、電力会社側に電気が流れ出ないよう制御
  • 通信機能: 他の機器と高速通信し、システム全体を効率的に制御

例えばオムロンのKPW-A-2シリーズや新電元のPVS-Cシリーズなどが市場に出ています。これらは「高速負荷追従技術」を備え、建物の電力使用量の変動に合わせて発電量を素早く調整します。

専用保護継電器の役割

高圧受電設備を持つ工場や商業施設では「専用保護継電器」も必要です。これは以下の機能を持ちます。

  • 逆電力継電器(RPR)機能: 逆潮流を検知して発電を停止させる保護機能
  • 単独運転検出機能: 停電時に太陽光発電システムだけが孤立運転するのを防ぐ
  • 周波数・電圧監視機能: 系統電源の状態を監視し、異常時に発電を停止

オムロンのKP-PRRV-CPCなどは、これらの機能を1台に集約した4in1タイプの専用保護継電器で、従来より機器数や配線を削減できます。

負荷計測・モニタリング装置の選択

システム全体を効率よく運用するには、建物内の電力消費状況を正確に把握するための計測・モニタリング装置も重要です。

  • CTセンサー: 幹線電流を計測するセンサー
  • 電力モニター: リアルタイムの発電量・消費量を表示
  • 通信ユニット: データを収集し制御システムへ伝送

NTTスマイルエナジーの「エコめがね自家消費RS」やオムロンの監視システムなど、使いやすいモニタリングシステムを選ぶと、日々の発電状況や自家消費率を簡単に確認できます。

完全自家消費システムの設計ポイント

適切なシステム設計がコスト効率と発電量最大化の鍵です。以下のポイントに注意しましょう。

適切なシステム容量の決め方

完全自家消費システムでは、発電能力(kW)よりも、実際に使える電力量が重要です。最適な容量を決めるには、以下の手順で検討します。

  1. 年間電力消費量の把握: 過去1年分の電気使用量(kWh)を確認
  2. 時間帯別の電力負荷分析: 日中(太陽光発電時間帯)の電力消費パターンを把握
  3. 最低負荷の確認: 日中でも常に使用している最低電力量をチェック
  4. 将来的な負荷増加の見込み: 電気自動車導入など将来の電力需要増加も考慮

例えば工場などでは、平日昼間に5kW程度の電力を常時使用している場合、少なくとも5kW程度のシステムは効率的に活用できます。しかし、休日や操業停止時の対策も考慮する必要があります。

住宅の場合、在宅時間帯や季節変動も考慮しながら適切な容量を決定しましょう。過大設計は無駄な初期投資につながる一方、適切なサイズであれば高い自家消費率を実現できます。

高圧・低圧システムの選択基準

導入先の受電設備によって、システム構成が変わります。

低圧システム(住宅・小規模店舗など)

  • 単相または三相200V受電施設向け
  • 比較的シンプルな構成で設置可能
  • パワコン容量は最大20kW程度まで

高圧システム(工場・ビル・大型店舗など)

  • 6.6kV高圧受電施設向け
  • 専用保護継電器や高圧連系機器が必要
  • より大容量(数十〜数百kW)の設置が可能

高圧システムでは設備が複雑になる分、設計・施工の専門性が高くなりますが、大規模な自家消費を実現できます。受電設備に合わせて、適切なシステムを選択しましょう。

効率を最大化する配置計画

パネルの設置場所や向きも重要な検討事項です。

  • 設置場所: 屋根・カーポート・地上など、スペースを有効活用
  • パネル向き: 東西南の複数方向に分散配置することで、日中の発電時間を延ばす
  • 影の影響: 周辺建物や樹木の影を避ける配置に
  • メンテナンス性: 点検・清掃がしやすい配置を考慮

特に工場や施設では、電力消費パターンに合わせた発電カーブを実現するために、異なる方角にパネルを分散配置する「東西分散配置」が効果的です。これにより朝から夕方まで安定した発電が可能になります。

蓄電池・エコキュートとの連携による自家消費率向上

完全自家消費をさらに効率的にするには、蓄電池などとの連携が鍵となります。

蓄電池併設のメリットとシステム構成

蓄電池を併設することで以下のメリットがあります。

  • 自家消費率の向上: 発電量>消費量の時間帯に余剰電力を蓄電
  • 電力ピークカット: 貯めた電力で日中や夕方の電力ピークを抑制
  • BCP対策: 停電時にも重要な負荷に電力供給可能
  • 充放電パターンの最適化: 電力需要に合わせた充放電プログラムの作成

例えばオムロンのKPBP-Bシリーズなど、完全自家消費パワコンと連携可能な蓄電システムなら、高精度な制御で再エネ利用率を最大化できます。

蓄電池容量の選定には、夜間の電力消費量や停電時に確保したい電力量を考慮します。住宅の場合、5〜10kWh程度が一般的ですが、用途によって最適なサイズは変わります。

エコキュート・電気温水器との効果的な連携

蓄電池よりも低コストで自家消費率を高める方法として、エコキュートなどの給湯機器との連携があります。

  • 昼間の余剰電力で湯を沸かす: 太陽光発電の余剰電力を熱エネルギーとして貯蔵
  • タイマー制御: 発電量が多い日中にエコキュートを運転するよう設定
  • ソーラーモードの活用: 天気予報と連動して晴れた日に昼間沸き上げを行うモード

熱エネルギーとして貯蔵すれば、蓄電池より安価に大容量のエネルギーを貯められます。例えば、エコキュートは一度に約400L以上のお湯を沸かせるものもあり、これは電気として貯めるなら10kWh以上の蓄電池が必要な量です。

また、床暖房やロードヒーティングなどの蓄熱式暖房設備も、日中の余剰電力の受け皿として活用できます。

EV・V2Hとの統合システム

電気自動車を所有している場合、V2H(Vehicle to Home)システムとの連携も効果的です。

  • EVへの日中充電: 太陽光の余剰電力でEVに充電
  • V2Hによる給電: 夜間や停電時にEVから住宅へ電力供給
  • 大容量バッテリーとしての活用: 住宅用蓄電池より大容量のEVバッテリーを活用

最新のEVは40〜100kWhもの大容量バッテリーを搭載しており、家庭の1日分以上の電力をまかなえる容量です。これを蓄電池代わりに使えば、自家消費率を劇的に高められます。

完全自家消費システムの導入費用と回収期間

システム導入を検討する上で、経済性の見通しも重要です。

初期費用の内訳と相場

完全自家消費システムの初期費用は、規模や構成によって大きく変わります。

住宅用(5kW程度)の一般的な費用内訳

  • 太陽光パネル: 60〜80万円
  • 完全自家消費型パワコン: 30〜50万円
  • 工事費・その他部材: 20〜30万円
  • 計測・モニタリング機器: 5〜15万円
  • 合計: 115〜175万円程度

産業用(50kW程度)の一般的な費用内訳

  • 太陽光パネル: 400〜600万円
  • 完全自家消費型パワコン: 150〜250万円
  • 専用保護継電器: 50〜100万円
  • 工事費・その他部材: 150〜250万円
  • 計測・モニタリングシステム: 30〜50万円
  • 合計: 780〜1,250万円程度

蓄電池を追加する場合は、容量に応じてさらに費用がかかります(家庭用5kWhで約70〜120万円、産業用20kWhで約250〜400万円程度)。

なお、パネル単価は年々下落していますが、完全自家消費専用機器は通常のシステムより割高な傾向があります。ただし、高度な制御機能により発電電力の有効活用率が高まるメリットがあります。

投資回収シミュレーション

投資回収期間は、以下の要素で決まります。

  • 初期投資額(機器費用+工事費)
  • 年間発電量(設置場所の日射条件による)
  • 自家消費率(何%の発電電力を使えるか)
  • 電力単価(地域・契約プランによる)
  • 機器のメンテナンス費用

一般的な住宅(5kW)での例

  • 初期投資: 150万円
  • 年間発電量: 5,000kWh
  • 自家消費率: 80%(蓄電池活用の場合)
  • 電力単価: 30円/kWh
  • 年間メリット: 5,000kWh × 80% × 30円/kWh = 12万円/年
  • 単純回収年数: 150万円 ÷ 12万円/年 = 12.5年

工場や商業施設など、日中の電力消費が多い施設では、さらに回収期間が短くなる傾向があります。また、電力会社からの買電単価が上昇すれば、メリットは大きくなります。

補助金・助成金の活用方法

初期費用を抑えるには、各種補助金の活用が効果的です。

国の補助金

  • 環境省・経産省の自家消費型太陽光発電設備導入支援
  • 蓄電池導入補助(家庭用・産業用)
  • ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)関連補助金

自治体の補助金

  • 都道府県・市区町村の独自補助
  • 自家消費型太陽光発電への上乗せ補助
  • 災害対策としての補助制度

例えば、環境省の補助事業では太陽光パネルに約4万円/kW、蓄電池に最大4万円/kWhなどの補助が受けられるケースがあります。自治体によっては、さらに上乗せ補助が受けられることも。

補助金を最大限活用することで、初期投資を3〜5割程度削減できる可能性があり、回収期間も大幅に短縮できます。最新の補助金情報は、導入前に必ず確認しましょう。

導入事例と成功のポイント

実際の導入事例から学ぶ点も多くあります。

住宅での導入事例

事例1: 蓄電池連携型の完全自家消費住宅

  • システム: 太陽光5.5kW + 蓄電池10kWh
  • 特徴: 日中の発電を蓄電し、夜間に活用
  • 効果: 電気料金が月平均15,000円→3,000円に削減
  • 成功ポイント: エコキュートも日中運転に切り替え、消費電力の大部分を太陽光でまかなう生活スタイルに変更

事例2: EV連携型の完全自家消費住宅

  • システム: 太陽光7kW + V2Hシステム + EV(日産リーフ40kWh)
  • 特徴: 日中のEV充電と夜間の住宅給電を組み合わせる
  • 効果: EV充電費用がほぼゼロに、家庭の電気代も大幅削減
  • 成功ポイント: 通勤でのEV使用と在宅時間を考慮した充放電計画

企業・工場での導入事例

事例3: 食品加工工場の完全自家消費システム

  • システム: 太陽光100kW + 高圧連系装置
  • 特徴: 工場の冷蔵・冷凍設備の常時負荷に合わせた容量設計
  • 効果: 年間電力料金の約15%削減、CO2排出量も年間約40トン削減
  • 成功ポイント: 冷凍機の運転調整により、太陽光発電カーブに合わせた電力消費を実現

事例4: オフィスビルの蓄電池連携システム

  • システム: 太陽光50kW + 蓄電池30kWh
  • 特徴: ピークカット運転と自家消費の両立
  • 効果: 電力料金の基本料金削減と使用量削減のダブル効果
  • 成功ポイント: AIによる需要予測と蓄電池の充放電最適化

失敗しないための導入ステップ

成功事例に共通する導入ステップは以下の通りです。

  1. 電力使用状況の詳細分析: 最低でも1年分のデータを収集・分析
  2. 適切なシステム容量の設計: 過大投資を避け、自家消費率を最大化する設計
  3. 使用電力と発電カーブの最適化: 負荷機器の運転調整や発電パネルの配置最適化
  4. 専門業者の選定: 完全自家消費システムの設計・施工実績がある業者を選ぶ
  5. 補助金の活用: 申請期限・条件を確認し、効果的に活用
  6. 運用後の継続的な最適化: モニタリングデータを活用し、運用方法を継続的に改善

特に重要なのは電力使用パターンの把握です。日中の最低負荷に合わせたサイジングが、無駄のないシステム設計の鍵になります。

まとめ:完全自家消費が最適な人の特徴

完全自家消費システムは、以下のような方に特に適しています。

  • 卒FIT後の太陽光発電システムの活用を検討している方
  • 日中の電力消費が多い家庭・企業
  • 売電収入より電気代削減を重視したい方
  • 停電対策としての自立電源を確保したい方
  • 環境負荷低減・CO2排出削減に積極的な方

特に電気料金が上昇傾向にある今、自家消費による電気代削減効果はますます大きくなってきています。専用機器の導入コストはかかりますが、長期的には経済的メリットと環境貢献の両立が可能です。

適切な設計と運用で、太陽光発電の恩恵を最大限に活かす完全自家消費システム。卒FIT後の新たな選択肢として、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

完全自家消費型の太陽光発電システム:設計のポイントと費用

 

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自家消費

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