
太陽光発電の固定価格買取制度(FIT)の期間満了を迎えた「卒FIT」電源が増えています。卒FITを迎えると、これまでの高額な固定価格での売電はできなくなりますが、引き続き余剰電力を売ることは可能です。しかし、どの電力会社に売電すればいいのか、悩んでいる方も多いでしょう。この記事では、卒FIT後の売電先選びで失敗しないためのポイントを解説します。
卒FIT後も売電を続けるための基礎知識
住宅用太陽光発電は、設置してから10年間は固定価格買取制度(FIT)によって、決められた高い価格で電力会社に買い取ってもらえました。しかし、この期間が終了すると「卒FIT」となり、売電単価は大きく下がります。
卒FIT後は、誰にどのように売電するかを自分で選択できるようになります。主な選択肢は「大手電力会社に売電する」「新電力会社に売電する」「完全自家消費に切り替える」の3つです。
卒FIT後の選択肢とは?
- 大手電力会社に売電する:地域の電力会社(東京電力、関西電力など)に継続して売電する方法です。手続きが簡単で、自動的に切り替わることが多いですが、買取価格は比較的低めです。
- 新電力会社に売電する:電力自由化後に参入した新しい電力会社に売電する方法です。買取価格が高めに設定されていることが多く、様々な特典やプランがあります。
- 完全自家消費に切り替える:売電せずに発電した電気をすべて自宅で使い切る方法です。蓄電池を設置すると効率的に自家消費できます。
それぞれの選択肢にはメリット・デメリットがありますが、自分の状況や優先したいポイントに合わせて選ぶことが大切です。
放置すると何が起こる?無償引取のリスク
卒FIT後に何も対策をせず放置してしまうと、余剰電力は一般送配電事業者によって無償で引き取られてしまいます。つまり、発電した電気を電力網にタダで提供することになり、せっかくの資産が無駄になってしまうのです。
例えば、卒FIT後の標準買取単価8.5円/kWhで年間3,000kWhを売電できる家庭なら、年間約25,500円の収入になります。これを放棄することになるため、10年間では25万円以上もの損失になってしまいます。
また、卒FIT後も太陽光発電システムのメンテナンス費用やパワコン交換積立などはかかるため、それらを売電収入で賄う機会を逃すことになります。
大手電力会社と新電力の比較
卒FIT後の売電先として主に選ばれるのが「大手電力会社」と「新電力会社」です。それぞれにどのような特徴があるのでしょうか。
大手電力会社のメリット・デメリット
メリット:
- 手続きが簡単:FIT期間中に契約関係があるため、特に申し込みをしなくても自動的に卒FIT後の通常買取プランに移行するケースが多いです。
- 安定性と信頼性:長年の実績がある企業なので、倒産リスクや急な契約変更の不安が小さいです。
- 地域密着型のサポート:地域に拠点があり、問題があった場合のサポート体制が整っています。
デメリット:
- 買取価格が低め:大手電力会社の卒FIT向け買取価格は、一般的に7~9円/kWh程度と新電力より低めに設定されています。
- 付加サービスが少ない:単純に買い取るだけのシンプルなプランが多く、付加価値サービスは限定的です。
- 選択肢が限られる:同一地域内では大手電力会社は基本的に1社のため、プラン選択の幅が狭いです。
新電力会社のメリット・デメリット
メリット:
- 買取価格が高め:新電力では10円以上の単価を提示する事業者も多く、売電収入アップが期待できます。
- 多様な特典やサービス:電気料金プランとのセット割や、売電分を電気料金から相殺するプランなど、様々な付加価値サービスがあります。
- 選択肢が豊富:多数の事業者があり、自分に合ったプランを選びやすいです。
デメリット:
- 契約内容の確認が必要:事業者によっては自社の電力購入契約にセットで加入することが条件のプランもあります。
- 事業継続性のリスク:新興企業の場合、将来的な買取価格の変更リスクや事業撤退リスクもゼロではありません。
- 手続きが煩雑:新たに契約を結ぶ必要があるため、一定の手続きが必要です。
買取価格の地域別・会社別比較
卒FIT後の売電で重要な要素の一つが買取価格です。地域や会社によって単価が異なりますので、比較することが大切です。
地域別の買取相場を知ろう
地域(電力会社エリア)ごとの買取相場は以下のようになっています。
大手電力会社の標準買取単価(2024年現在・税込)
- 東京電力エリア:約8.5円/kWh
- 関西電力エリア:約8.0円/kWh
- 中部電力エリア:約8.0円/kWh
- 東北電力エリア:約7.5円/kWh
- 九州電力エリア:約7.0円/kWh
- 中国電力エリア:約7.15円/kWh
一方、新電力各社の買取単価は地域を問わず10円/kWh前後のケースが多く、キャンペーン時には12~13円/kWhという高単価を提示する会社もあります。例えば丸紅新電力や伊藤忠エネクス、ENEOSでんきなどが新電力の代表例です。
固定買取型と市場連動型の違い
卒FIT後の売電プランには、大きく分けて「固定価格型」と「市場連動型」の2種類があります。
固定価格型は、契約期間中は買取単価が固定されるプランです。例えば「10円/kWh」と決められた価格で、市場変動に関係なく買い取られます。メリットは収入の見通しが立てやすいこと、デメリットは市場価格が上昇しても恩恵を受けられないことです。
市場連動型は、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格など市場価格に連動して買取単価が変動するプランです。メリットは市場価格高騰時に収入が増える可能性があること、デメリットは価格変動リスクを負う点です。市場価格が低迷すれば売電収入も下がります。
固定価格型は安定志向の方に、市場連動型はリスクを取って高収入を狙いたい方に向いています。一般的な家庭用では、手間がかからず収入が予測しやすい固定価格型を選ぶ方が多いようです。
売電先を選ぶ際のポイント
卒FIT後の売電先を選ぶ際は、買取価格だけでなく、様々な要素を考慮することが大切です。
買取価格だけで判断しない
単純に買取価格の高さだけで選ぶのではなく、以下のポイントも確認しましょう。
確認すべきポイント
- 契約期間:通常は1年ごとの自動更新ですが、最低契約期間がある場合も。
- 解約条件:解約時に違約金が発生するかどうか、解約手続きの簡便さも重要です。
- 支払方法:現金振込か電気料金との相殺か、支払いサイクル(月払い・年払いなど)。
- 買取価格の見直し条件:契約期間中でも価格が変わる可能性があるか、その通知方法。
- 対応エリア:サービス提供エリアは会社によって異なり、申し込みできない地域もあります。
- 申込方法と手続きの手軽さ:オンラインで完結するか、書類提出が必要か。
特に期間限定の高額買取プランの場合、期間終了後の条件も確認しておくことが重要です。一時的に高くても、その後大幅に下がる場合もあります。
電力購入契約との関係を確認
売電契約と電力購入契約(家庭で使う電気の契約)の関係にも注目しましょう。
契約タイプの違い
- 売電のみ契約可能:ENEOSでんきなど、現在の電力購入先を変えずに売電だけ契約できる会社もあります。
- セット契約が条件:出光興産や大阪ガスなど、自社の電気を購入することを条件に高単価を提示する会社があります。
- セット契約でお得:電気の購入と売電をセットにすると売電単価がアップ(+1円/kWhなど)するプランもあります。
電力購入契約をセットにすると売電単価は上がりますが、購入する電気料金の単価も確認する必要があります。セット割で売電が高くなっても、購入電気料金が割高だと総合的には損をする可能性もあります。自分の電気使用量と売電量のバランスを考えて判断しましょう。
売電契約の手続き方法
卒FIT後の売電先を決めたら、具体的な手続きに移ります。
必要な書類と準備するもの
売電契約の申し込みに必要な主な書類・情報は以下の通りです。
- 受給地点特定番号:電力系統の供給地点を特定する22桁の番号で、検針票や買取満了通知書に記載されています。
- お客様番号:現在契約している電力会社の顧客番号。
- FIT終了日:買取満了通知書に記載されている満了日。
- 発電設備の情報:太陽光発電システムの容量、設置年月など。
- 本人確認書類:運転免許証やマイナンバーカードなど。
- 銀行口座情報:売電収入の振込先となる口座情報。
これらの情報を手元に用意してから申し込み手続きを始めると、スムーズに進められます。
手続きのタイミングと流れ
FIT期間満了の4~6ヶ月前に「買取期間満了のお知らせ」が現在の売電先から届きます。この通知を受け取ったら、以下の流れで手続きを進めましょう。
手続きの基本的な流れ
- 売電先(買取事業者)を決定する
- 必要な情報・書類を準備する
- 新しい売電先へ申し込む(多くはWebフォームか電話で可能)
- 申込情報の確認と審査(通常1~2週間)
- 契約書類の受け取りと返送(必要な場合)
- 切り替え完了の連絡を受ける
- 売電開始と入金(検針日に合わせて開始)
手続きには申し込みから切替完了まで数週間から1ヶ月程度かかります。FIT満了日の1~2ヶ月前までには申し込みを済ませることをお勧めします。手続きが満了日に間に合わない場合、一時的に地域の大手電力会社の標準プランに自動移行することが多いです。
おすすめの売電先の選び方
最後に、どんな人にどのような売電先がおすすめかをまとめます。
こんな人におすすめの売電先
安定志向の方
- おすすめ:大手電力会社の標準プラン
- 理由:手続きが簡単で安心感があり、収入は少なくても確実性を重視できる
高単価重視の方
- おすすめ:新電力の固定価格買取プラン(丸紅新電力、ENEOSでんきなど)
- 理由:大手より2~3円高い単価で買い取ってくれる場合が多い
電力会社を変えたくない方
- おすすめ:売電のみ契約可能な新電力(ENEOSでんきなど)
- 理由:現在の電気購入先を維持したまま、売電先だけ変更できる
ガスとのセット契約を検討している方
- おすすめ:ガス会社系新電力(大阪ガス、東京ガスなど)
- 理由:ガスとセットで割引や優遇がある場合が多い
収入より電気代削減を重視する方
- おすすめ:仮想蓄電サービス(東京電力の再エネお預かりプランなど)
- 理由:売電より自家消費扱いにすることで電気代削減効果が高い
蓄電池導入を検討している方
- おすすめ:蓄電池連携サービス(東京ガスの蓄電池導入サポートプランなど)
- 理由:蓄電池購入と連動した高額買取特典があり、導入コスト軽減につながる
まとめ:失敗しない売電先選びのコツ
卒FIT後の売電先選びで失敗しないためのポイントをまとめます。
- 複数社の条件を比較する:買取単価、契約条件、支払方法など総合的に比較しましょう。
- 自分の優先事項を明確にする:高単価重視か、手続きの簡便さか、セット割引か、何を重視するかで選び方が変わります。
- 契約条件の細部まで確認する:期間限定価格の期間後の条件や、解約時の違約金などを確認しましょう。
- タイミングを逃さない:FIT満了の1~2ヶ月前までには申し込みを済ませるようにしましょう。
- 最新情報をチェックする:電力業界は変化が速いので、最新の買取条件やキャンペーン情報を確認しましょう。
卒FITは終わりではなく新たなスタートです。自分に合った売電先を選んで、太陽光発電システムを長く有効活用していきましょう。