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太陽光発電を導入されているご家庭で「卒FIT」を迎えた、または間近に控えている方にとって、蓄電池の導入は大きな関心事ではないでしょうか。
売電価格が下がる中、太陽光で発電した電気を自宅で有効活用するために蓄電池は魅力的な選択肢です。
本記事では、蓄電池導入による電気代削減効果を正確に把握するためのシミュレーション方法や具体的な計算例をわかりやすく解説します。
蓄電池シミュレーションとは?その目的と重要性
蓄電池シミュレーションとは、蓄電池を導入した場合の効果や経済性を事前に予測・検証するためのツールです。
特に卒FIT(固定価格買取制度の終了)を迎えた太陽光発電所有者にとって、次のステップを検討する上で欠かせない判断材料となります。
従来のFIT制度では余剰電力を高い価格で売電できましたが、10年間の買取期間終了後は電力会社への売電単価が大幅に下がります(1kWhあたり約10円前後)。
そのため、安く売るよりも自宅で貯めて使う「自家消費」の方が経済的になってきたのです。
シミュレーションでは、主に電気代削減効果、投資回収期間、非常時の稼働時間、最適な容量選定などを検証できます。
これらの情報により、蓄電池導入の是非や適切な製品選びの判断ができます。
蓄電池導入で解決できる卒FIT後の課題
卒FIT後の主な課題は「余剰電力の価値低下」です。
かつて1kWhあたり42円で売電できていた電力が、卒FIT後には8〜10円程度に下がります。
一方で電力会社から購入する電気は1kWhあたり約25〜30円と高いままです。
この「売る時安く、買う時高い」という状況を解消するのが蓄電池です。
日中に発電した余剰電力を貯めておき、夕方以降に使用することで、割高な夜間電力の購入を減らせます。
自家消費率の向上、購入電力量の削減、ピークタイムの電力消費抑制などが主なメリットとなります。
蓄電池シミュレーションで確認すべき4つのポイント
蓄電池導入を検討する際は、以下の4つのポイントをシミュレーションで確認しましょう。
- 電気代削減効果:年間でどれくらい電気代が削減できるか
- 投資回収期間:導入コストを回収するのにかかる期間
- 非常時の稼働時間:停電時にどれだけの家電をどのくらい使えるか
- 最適な容量選定:家庭の状況に合った適切な蓄電池サイズ
これらを総合的に判断することで、ご家庭に最適な蓄電池導入計画を立てられます。
電気代削減効果の算出方法
蓄電池による電気代削減効果は、主に「余剰電力の自家消費効果」と「電気料金プラン活用効果」から成ります。
卒FIT後の余剰電力売電単価は約8〜10円/kWhですが、電力会社からの購入電気は約25〜30円/kWhと3倍ほど高価です。
例えば、1日に5kWhの余剰電力を蓄電池に貯めて夜間に使用すると、売電した場合の50円の収入を失う代わりに、150円の夜間電力購入を避けられます。
差額の100円が実質的な1日の節約額で、年間では約36,500円の削減効果が期待できます。
電気代削減効果を正確に算出するには、太陽光発電量データ、家庭の電力消費量データ、電気料金プラン、蓄電池の容量と効率などの情報が必要です。
専用のシミュレーションツールや販売店のサービスを利用するとより正確な結果が得られます。
投資回収期間の計算方法
投資回収期間は、蓄電池導入費用を年間削減額で割ることで算出できます。
投資回収期間(年)= 蓄電池導入費用(円)÷ 年間削減額(円/年)
例えば、10kWhの蓄電池を150万円(補助金適用後)で導入し、年間削減額が10万円の場合、投資回収期間は15年となります。
ただし、電気料金の将来変動、蓄電池の劣化、メンテナンスコスト、売電単価の変動なども考慮する必要があります。
最近の蓄電池の投資回収期間は、補助金を活用した場合で約10〜15年程度が一般的です。
蓄電池の保証期間(多くは10年前後)と比較して判断するとよいでしょう。
停電時のバックアップ時間シミュレーション
停電時のバックアップ時間は以下の式で計算できます。
バックアップ時間(時間)= 蓄電池の有効容量(kWh)÷ 使用機器の消費電力(kW)
例えば、8kWhの蓄電池で合計1kW(1,000W)の家電を使用する場合、約8時間のバックアップが可能です。
実際には放電深度や変換ロスなどで使用可能容量が少なくなる点も考慮が必要です。
主な家電の消費電力目安は、LED照明(5〜10W)、冷蔵庫(150W程度)、テレビ(60W程度)、エアコン(600〜1,000W)などです。
これらを組み合わせた「最低限の生活」負荷(約300W)で考えると、8kWhの蓄電池があれば約26時間使用できる計算になります。
太陽光発電システムと連携している場合は、日中の太陽光からの充電も可能なため(機種による)、さらに長期間の停電にも対応できます。
最適な蓄電池容量の選び方
蓄電池の最適な容量は、太陽光発電の余剰電力量と夜間の電力消費量をもとに選ぶとよいでしょう。
太陽光発電からの余剰電力が平均5kWh/日程度であれば、蓄電池容量も5kWh程度が適正な目安になります。
また、夕方から翌朝までの電力消費量も重要で、例えば夜間消費が7kWh程度あれば、蓄電池も7kWh前後が望ましいでしょう。
費用対効果の観点からは、小容量(4〜5kWh)は初期費用を抑えられるものの効果は限定的、中容量(6〜8kWh)は一般家庭の夜間使用量をカバーでき費用対効果も良好です。
大容量(10kWh以上)は停電対策重視または電力消費の多い家庭向け、という目安があります。
子どもの独立や在宅勤務の増加など、将来の生活スタイル変化による電力使用量の変動も考慮するとよいでしょう。
無料で使える蓄電池シミュレーションツール5選
蓄電池導入効果を試算するための無料シミュレーションツールを紹介します。
- 資源エネルギー庁「どうする?ソーラー」シミュレーター
- 特徴:公的機関による信頼性の高いデータ、複数の選択肢の比較が可能
- 入力項目:設置場所、太陽光発電の設備容量、設置年月、世帯人数など
- エネがえる 蓄電池シミュレーション
- 特徴:高精度なシミュレーション、地域別の気象データを反映
- 入力項目:住所、太陽光発電容量、電力使用量、蓄電池容量など
- 京セラ 太陽光発電・蓄電池シミュレーション
- 特徴:操作が簡単、京セラ製品の仕様に基づく正確な試算
- 入力項目:住所、屋根の向き・角度、世帯人数、電気使用量など
- シャープ 太陽光発電・蓄電池システムシミュレーション
- 特徴:2段階のシミュレーション、補助金情報も確認可能
- 入力項目:郵便番号、電気料金プラン、太陽光発電の有無など
- オムロン 蓄電池選び&電気利用シミュレーション
- 特徴:質問形式で進む対話型、生活スタイルに合わせた提案
- 入力項目:電気に関する悩み、太陽光パネルの有無、停電時の希望など
これらのツールを使い比べることで、より多角的な視点から蓄電池導入の効果を検証できます。
蓄電池シミュレーションはあくまで目安であり、実際の効果は各家庭の状況によって変わることを念頭に置いておきましょう。
実例で見る蓄電池導入効果シミュレーション
具体的な家庭モデルを想定して、蓄電池導入効果をシミュレーションした例を見てみましょう。
モデルケース①:4人家族、4kW太陽光のケース
4人家族で4kWの太陽光発電を設置しているご家庭(年間電力使用量5,000kWh)に、6kWh容量の蓄電池を導入した場合のシミュレーション結果です。
蓄電池導入前は、発電した電力の30%を自家消費し、70%を売電していました。
蓄電池導入後は自家消費率が70%以上に向上し、電力会社からの購入量が年間2,500kWhから1,500kWhへと約40%削減されました。
金額にして年間約3万円の電気代削減効果が見込まれます。
初期投資(補助金適用後)を120万円とすれば、単純計算で40年の回収期間となります。
電気料金の上昇や非常時の安心感などの付加価値を考慮すると、総合的に見て価値ある投資と言えるでしょう。
モデルケース②:2人家族、6kW太陽光のケース
2人家族(退職後の夫婦)で6kWの大型太陽光発電を設置しているご家庭の例です。
日中の電力消費が少なく余剰電力が多いため、蓄電池のメリットが特に大きいケースとなります。
8kWh容量の蓄電池を導入した場合、自家消費率は25%から65%に向上し、年間の余剰売電量は4,500kWhから1,800kWhに減少しました。
売電収入は減りますが、購入電力量の大幅削減により年間約5万円の電気代削減効果があります。
また、夫婦2人と比較的電力消費が少ないため、停電時も8kWhの蓄電池があれば2日程度の基本的な生活をカバーできます。
防災面でも大きなメリットがあるシミュレーション結果となりました。
モデルケース③:太陽光発電を設置していないケース
太陽光発電を設置していない家庭では、蓄電池を導入しても電気代削減効果はほとんど期待できません。
蓄電池の導入費用を考慮すると、シミュレーションの結果でも、10年間でわずか数百円程度の削減にとどまるか、むしろ赤字になるケースが多く見られます。
電気代の差額だけでは数百万円の蓄電池導入費用を回収するのは極めて難しく、経済的なメリットは出にくいといえます。
太陽光発電がない家庭にとって蓄電池は「電気代削減のための投資」には向きません。
もし蓄電池の導入を検討するなら、電気代軽減効果よりも停電時のバックアップや防災対策といった観点を重視すべきでしょう。
蓄電池導入により電気代を削減しやすい家庭
次のような家庭では、蓄電池の導入により電気代削減や経済効果を得やすい傾向があります。
太陽光発電を活用している家庭
太陽光発電を設置している家庭は、昼間に余った電力を蓄電池に貯めて夜間に使えるため、電気代削減効果が期待できます。
卒FIT後も自家消費に回せるので、売電単価が下がっても無駄がなく経済的メリットを維持できます。
季節や天候によって発電量に差が出ても、蓄電池を併用すれば電力の安定利用が可能な点も蓄電池のメリットです。
余剰電力を効率的に使える点で、太陽光発電との組み合わせは蓄電池の導入メリットが大きいといえるでしょう。
停電時の備えとして蓄電池を検討している家庭
災害や停電時に電力を確保できる点が、蓄電池の大きな魅力です。
特に在宅ワークや医療機器を利用している家庭では、停電リスクを考えると「電気代削減+安心の確保」という二重のメリットが得られます。
蓄電池の導入コストはかかりますが、安心のための備えとして価値を見出す人には非常に有効です。
夜間の電気消費量が多い家庭
夜間に冷暖房や家電をよく使う家庭では、昼間に太陽光発電で貯めた電力や夜間料金で安く充電した電力を効率的に活用できます。
結果として昼間の高い電気料金を抑えられるため、蓄電池の導入効果が高まりやすい傾向にあります。
特に深夜に電気を多く使うライフスタイルの家庭や、夜間充電する家電(EV車など)を持つ家庭にとっては、電気代の負担を軽減しやすい点が特徴です。
夜間に電気消費が多い家庭では費用対効果を得やすく、蓄電池の導入メリットを感じやすいでしょう。
蓄電池導入により電気代を削減しにくい家庭
蓄電池を導入しても、電気代削減の効果が得られにくいケースを紹介します。
普段から消費電力が少ない家庭
電気使用量が少ない家庭では、電気代の削減余地が小さいため、蓄電池を導入しても大きな効果は得られにくくなります。
単身世帯や日中ほとんど外出している家庭では、電気代の削減幅が蓄電池の導入費用に見合わないケースが多いです。
長期的に見ても投資回収が難しくなるため、経済メリットを目的に蓄電池を導入するには不向きといえるでしょう。
設置スペースの確保ができない家庭
蓄電池はある程度の設置スペースが必要になるため、屋外や屋内に十分な余裕がない家庭では導入が難しくなります。
無理に小型タイプを選ぶと容量不足で十分な効果が得られず、結果的に電気代削減につながらない可能性があります。
蓄電池の設置環境が悪いと機器の寿命や性能に影響するため、事前に設置条件を確認することが重要です。
昼間の電気使用量が多い家庭
昼間に電気を多く使う家庭は、太陽光発電を設置していても発電した電気をそのまま消費してしまうため、蓄電池に貯められる余剰電力が少なくなります。
その結果、夜間に放電して電気代を下げる効果が十分に得られません。
在宅時間が長い家庭や電化製品を日中に頻繁に使うライフスタイルでは、蓄電池の経済効果は限定的になりやすい点に注意が必要です。
蓄電池選びの際に重要な5つのポイント
蓄電池導入を検討する際に、押さえたい5つのポイントを紹介します。
複数から相見積もりをとる
蓄電池の導入費用はメーカーや販売業者によって大きく差があります。
同じ容量や性能でも数万円以上違うケースも珍しくないため、必ず複数社から相見積もりを取って比較することが重要です。
見積もりを取る際には本体価格だけでなく、設置工事費や保証内容もチェックしておくと安心です。
停電時の活用法を考えておく
蓄電池は単に電気代を下げるためだけでなく、停電時の電源確保としても役立ちます。
どの家電を非常用に使いたいかをあらかじめ決めておくことで、必要な容量や接続方法も明確になります。
特に冷蔵庫や通信機器、医療機器を使用する家庭では、停電時に稼働できるかどうかが安心感につながります。
生活スタイルに合った機種を選ぶ
家庭によって電気の使い方は大きく異なるため、ライフスタイルに合った蓄電池を選ぶことが重要です。
夜間の使用量が多い家庭なら大容量タイプ、日中に多く使う家庭なら高出力で瞬間的に電力を供給できるタイプが向いています。
将来的にEV(電気自動車)の導入を考えている場合、EV充電に対応した機種を選ぶことで長期的に活用しやすくなります。
年間の電気使用量を把握する
蓄電池の適切な容量を決めるには、家庭の年間電気使用量の把握が大切です。
電力会社の明細やスマートメーターを確認すれば、季節ごとの使用傾向もわかります。
消費電力量を知らないまま導入すると「容量不足で効果が出ない」「オーバースペックで無駄になる」といった失敗につながります。
蓄電池導入の際は、年間の電気使用量をチェックして最適な機種選びを進めましょう。
補助金を活用して導入費用を抑える
蓄電池は数百万円規模の投資になるケースが多いため、補助金制度を利用して導入費用を抑えるのがおすすめです。
国の制度だけでなく、自治体によっては独自の補助金や助成金が用意されている場合もあります。
申請には期限や条件があるため、導入を検討する際は必ず最新の情報を確認しておくことが大切です。
補助金を活用すれば、蓄電池の初期費用の負担を大きく軽減できる可能性が広がります。
まとめ:自宅に最適な蓄電池を選ぶためのシミュレーション活用法
蓄電池導入を検討する際は、シミュレーションツールを活用して自宅に最適なシステムを選びましょう。ポイントは以下の通りです。
- 複数のシミュレーションツールを比較する:メーカー公式と第三者ツールの両方を試して、より客観的な判断材料を集めましょう
- 実際の電力データを活用する:より正確な結果を得るには、ご家庭の実際の電力使用量データや発電量データを使用することが大切です
- 経済性だけでなく総合的に判断する:投資回収期間だけでなく、停電対策としての価値や環境貢献なども含めて総合的に評価しましょう
- 将来の生活変化も考慮する:子どもの独立や退職など、将来の電力使用パターン変化も考慮して選ぶことが重要です
- 補助金情報を最新のものに:国や自治体の補助金は毎年変わることが多いので、最新情報を入手しましょう
蓄電池は決して安い買い物ではありませんが、卒FIT後の太陽光発電の有効活用や災害時の安心確保など、多くのメリットがあります。
シミュレーションツールをうまく活用して、ご家庭に最適な蓄電池選びをしてください。