
自家消費とは?卒FIT後の選択肢を解説
FIT制度(固定価格買取制度)による10年間の高額買取が終了すると、発電した電気の扱いについて選択を迫られます。このタイミングで多くの方が「自家消費」に注目しています。
自家消費とは、太陽光パネルで発電した電気を自宅で使うことです。FIT期間中はほとんどの電気を売電した方が経済的でしたが、卒FIT後は「自分で使う」方が得になるケースが増えています。
発電した電気は、自宅で使うか売電するか、二択しかありません。
卒FIT後の売電単価は大手電力会社で7~9円/kWh程度まで下がります。一方、電力会社から電気を買う場合は25~30円/kWh以上かかるため、自分で発電した電気を自分で使った方が経済的なのです。
自家消費型と売電型の違い
太陽光発電には「全量売電型」と「自家消費型(余剰売電型)」の2種類があります。
【全量売電型】
- 発電した電気をすべて電力会社に売電
- 主に事業用・産業用の大規模発電所で採用
- 自宅の電気は従来通り電力会社から購入
【自家消費型(余剰売電型)】
- 発電した電気を優先的に自宅で消費
- 余った電気だけを電力会社に売電
- 住宅用太陽光発電の標準的な運用方法
一般家庭の太陽光発電は基本的に「自家消費型」ですが、卒FIT前は高い買取価格があったため「売電重視」の運用が主流でした。卒FIT後は「自家消費重視」へと考え方を変えることが大切です。
卒FIT後はなぜ自家消費がおすすめなの?
卒FIT後に自家消費をおすすめする最大の理由は「経済的メリット」です。
例えば、1kWhあたりの電気の価値を比較すると:
- 電力会社に売る場合:7~9円程度
- 自宅で使う場合:25~30円以上の電気代節約
つまり、同じ1kWhの電気でも、売るより使った方が3倍以上お得なのです。
また、売電価格は年々下がる傾向がある一方、電気料金は上昇傾向にあります。この差は今後さらに広がる可能性が高く、自家消費の経済的メリットは増していくでしょう。
自家消費の5つのメリット
自家消費型太陽光発電には多くのメリットがあります。特に卒FIT後は以下の5つがポイントです。
電気代の削減効果
自家消費の最大のメリットは電気代の削減です。
太陽光発電で自宅の電気をまかなうことで、電力会社から購入する電気を減らせるため、月々の電気代が大幅に下がります。
【一般的な削減効果の例】
- 4kW太陽光発電システムの年間発電量:約4,000kWh
- 自家消費率30%の場合の自家消費電力量:約1,200kWh
- 電気料金単価30円/kWhで計算すると:年間約36,000円の節約
日中在宅時間が長い家庭や、エコキュート・蓄電池を活用して自家消費率を高めれば、さらに大きな節約効果が期待できます。
近年の電気料金高騰を考えると、自家消費による「電気代の固定化」の価値はますます高まっています。
停電時も電気が使える
太陽光発電システムがあれば、災害などによる停電時でも日中は発電した電気を使うことができます。(ただし、システムによって制限がある場合があります)
特に蓄電池を併設していれば、夜間や悪天候時にも電気を使えるため、災害時の安心感が高まります。
【停電時に使える主な電気製品】
- 照明
- スマートフォンの充電
- 冷蔵庫
- テレビ
- 給湯器の制御系統
近年の自然災害の増加に伴い、「エネルギーの自給自足」という観点からの評価も高まっています。
環境にやさしい
太陽光発電は発電時にCO2を排出しないクリーンエネルギーです。自家消費することで、火力発電などによる電気の使用量を減らし、環境負荷を軽減できます。
【環境貢献の具体例】
- 一般家庭(4kW太陽光発電)の年間CO2削減量:約2トン
- これは約140本の杉の木が1年間に吸収するCO2量に相当
また、自家消費型の太陽光発電は「エネルギーの地産地消」を実現し、送電ロスの削減にも貢献します。環境意識の高まりとともに、この価値も再評価されています。
電気の地産地消を実現
自分で発電した電気を自分で使う「電気の地産地消」には、様々な意義があります。
- 送電ロスの削減(長距離送電が不要)
- 電力系統への負担軽減
- エネルギーの自給率向上
- 災害時のレジリエンス(回復力)向上
日本は化石燃料の多くを輸入に頼っているため、自家消費型太陽光発電の普及はエネルギー安全保障の観点からも重要視されています。
将来の電気料金上昇に備えられる
世界的なエネルギー価格の高騰や、再エネ賦課金の増加などにより、電気料金は長期的に上昇する可能性が高いと言われています。
自家消費型太陽光発電システムがあれば、この電気料金上昇の影響を抑えることができます。いわば「電気代の将来リスクに対するヘッジ」としての役割も期待できるのです。
特に退職後の固定収入期には、光熱費の変動リスクを減らせる点も大きなメリットといえるでしょう。
自家消費の3つのデメリット
メリットが多い自家消費型太陽光発電ですが、いくつかの課題もあります。導入を検討する際には、以下のデメリットもしっかり理解しておきましょう。
初期費用がかかる
卒FIT後に自家消費率を高めるためには、蓄電池などの追加設備が必要になるケースが多く、その初期費用が課題となります。
【主な追加設備の費用目安】
- 家庭用蓄電池(5kWh~10kWh):80万円~150万円
- V2H(電気自動車と連携するシステム):50万円~100万円
- HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム):10万円~30万円
これらの設備は、補助金を活用しても相応の投資が必要です。投資回収期間は設備や使用状況によって異なりますが、蓄電池単体では7~10年程度かかるケースが多いようです。
ただし、電気料金の上昇や停電対策としての価値も考慮すると、長期的には十分なメリットがあるといえます。
天候や時間帯による制約
太陽光発電の最大の特徴は、天候や時間帯によって発電量が大きく変動することです。
- 晴れの日と曇りや雨の日では発電量に大きな差がある
- 夜間は発電しない
- 季節によって発電量が変わる(夏>春・秋>冬)
この変動に合わせて生活リズムを調整しなければ、自家消費率を高めることは難しくなります。
例えば、洗濯や掃除などの電力を多く使う家事を晴れた日中に集中させる、休日の日中に電気をたくさん使うといった工夫が必要です。これが面倒と感じる方も少なくありません。
蓄電池があれば時間的な制約は緩和されますが、天候による発電量の変動リスクは残ります。
メンテナンス費用が必要
太陽光発電システムは長期間使用するための定期的なメンテナンスが欠かせません。特に卒FIT後は設置から10年以上経過しているため、機器の劣化や故障のリスクが高まります。
【主なメンテナンス項目】
- パワーコンディショナの交換(10~15年程度で必要):20万円~40万円
- パネルの清掃・点検:数千円~数万円/回
- 配線や架台の点検:数千円~数万円/回
これらのメンテナンス費用も含めて考えると、自家消費のメリットが一部相殺される場合があります。ただし、適切なメンテナンスを行えば20年以上の長期運用が可能であり、トータルでは十分なメリットがあるといえるでしょう。
自家消費率を高める4つの方法
自家消費のメリットを最大化するためには、自家消費率(発電量のうち自宅で使う割合)を高めることが重要です。ここでは効果的な4つの方法を紹介します。
昼間の電力使用を増やす
太陽光発電は日中に発電するため、電力消費も日中にシフトさせることが自家消費率向上の基本です。
【実践できる具体的な工夫】
- 洗濯機や食器洗い機を日中に使用する
- タイマー機能を活用して家電の使用時間を調整する
- 在宅勤務の日は積極的に電力を使う
- エアコンの予冷・予熱を日中に行う
家電のタイマー機能やスマート家電を活用すれば、生活リズムを大きく変えることなく、自家消費率を高めることができます。
費用をかけずに実践できる方法なので、まずはここから始めるのがおすすめです。
エコキュートを活用する
エコキュートは太陽光発電との相性が非常に良い家電です。通常は夜間電力で沸き上げを行いますが、設定を変更して日中の太陽光発電時間帯に沸き上げることで、自家消費率を大幅に高められます。
【エコキュートの昼間運転のメリット】
- 大きな電力を使うため、自家消費率が一気に向上
- お湯として電気を「貯蔵」できる(蓄熱効果)
- 夜間の電力消費を減らせる
最新のエコキュートには「ソーラーモード」や「おひさまモード」と呼ばれる機能があり、天気予報と連動して自動的に昼間運転に切り替えるものもあります。既にエコキュートをお持ちの方は、設定変更だけで自家消費率を高められる可能性があります。
蓄電池を導入する
自家消費率を飛躍的に高める最も確実な方法は、蓄電池の導入です。日中の余剰電力を蓄電池に貯めて夜間に使用することで、自家消費率を大幅に向上させることができます。
【蓄電池導入のメリット】
- 自家消費率を60~80%程度まで高められる
- 昼と夜の電力需給ギャップを埋められる
- 停電時にも電気が使える安心感
- 電気料金の高い時間帯の購入電力を減らせる
ただし、蓄電池の導入コストは依然として高く、経済性だけで判断すると投資回収に時間がかかるケースが多いです。しかし、補助金の活用や停電対策としての価値も含めて検討すると、十分に検討に値する選択肢といえます。
電気自動車とV2Hの活用
電気自動車(EV)を所有している方には、V2H(Vehicle to Home)システムの導入がおすすめです。EVのバッテリーは家庭用蓄電池の数倍の容量があるため、大容量の蓄電池として活用できます。
【V2Hシステムのメリット】
- 日中は太陽光発電でEVに充電、夜間はEVから家に給電が可能
- EV走行用の電力を実質的に太陽光でまかなえる
- 長時間の停電時にも対応可能
- 蓄電容量が大きい(40~60kWh程度)
V2Hシステムの導入には50万円以上の費用がかかりますが、EVを活用することで家庭用蓄電池よりも費用対効果が高くなる可能性があります。また、EVと太陽光発電の組み合わせは「走行の脱炭素化」にもつながるため、環境面でも大きなメリットがあります。
自家消費による電気代削減効果を試算
具体的な数字で自家消費の効果を見てみましょう。ここでは5kWの太陽光発電システムを例に、自家消費率の違いによる経済効果を試算します。
【条件設定】
- 太陽光発電システム容量:5kW
- 年間発電量:5,000kWh
- 買電単価:30円/kWh
- 卒FIT後の売電単価:8円/kWh
【ケース1】自家消費率30%(追加設備なし)
- 自家消費電力量:1,500kWh
- 売電量:3,500kWh
- 電気代節約額:1,500kWh × 30円 = 45,000円/年
- 売電収入:3,500kWh × 8円 = 28,000円/年
- 年間経済効果:合計73,000円
【ケース2】自家消費率50%(エコキュート活用など)
- 自家消費電力量:2,500kWh
- 売電量:2,500kWh
- 電気代節約額:2,500kWh × 30円 = 75,000円/年
- 売電収入:2,500kWh × 8円 = 20,000円/年
- 年間経済効果:合計95,000円
【ケース3】自家消費率70%(蓄電池導入)
- 自家消費電力量:3,500kWh
- 売電量:1,500kWh
- 電気代節約額:3,500kWh × 30円 = 105,000円/年
- 売電収入:1,500kWh × 8円 = 12,000円/年
- 年間経済効果:合計117,000円
このように、自家消費率を高めることで年間の経済効果が増大します。ケース1と比較すると、ケース3では年間44,000円の差となります。これが蓄電池などの追加投資の回収原資となります。
実際には各家庭の電力使用パターンや設備の状況によって結果は異なりますが、自家消費率を高めるほど経済的なメリットが大きくなる傾向は共通しています。
自家消費を支援する補助金・支援制度
自家消費型太陽光発電や関連設備の導入・増強を後押しする様々な支援制度があります。主なものをご紹介します。
【国の補助金】
- 「住宅省エネ2025キャンペーン」関連事業:住宅の省エネ改修と合わせて太陽光発電や蓄電池を導入する場合に補助
- 環境省・経産省の補助事業:太陽光発電に約4万円/kW、蓄電池に約1/3(上限4万円/kWh)程度の補助
- クリーンエネルギー自動車導入促進補助金:EVやPHEV購入に最大55万円の補助
【自治体の補助金】
- 東京都:太陽光発電システム導入に最大数十万円、蓄電池も別途補助
- 大阪府・神奈川県・埼玉県など:独自の太陽光発電・蓄電池導入補助制度
- 自家消費型の設置に限定した補助制度も増加中
【蓄電池関連の補助金】
- 自治体による蓄電池導入補助:2~5万円/kWh程度、上限20~60万円
- ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)関連補助金:蓄電池導入にも適用可能
【その他の支援制度】
- 電力会社の買取プラン:卒FIT電源向けの買取単価上乗せプランなど
- メーカー保証の延長や低金利ローン:長期利用を想定した支援制度
これらの補助金や支援制度は毎年内容が変わることが多いため、最新情報の確認が重要です。また、地域によって利用できる制度が異なりますので、お住まいの自治体の公式サイトなどで詳細を確認しましょう。
まとめ:卒FIT後は自家消費を検討しよう
卒FIT後の太陽光発電の活用方法として、自家消費型へのシフトが最も有力な選択肢であることがわかりました。
【おさらい】卒FIT後の自家消費のメリット
- 売電より自家消費の方が経済的に有利
- 電気代の変動リスクを減らせる
- 停電時の電源確保につながる
- 環境負荷の低減に貢献できる
【自家消費を高める方法】
- お金をかけずにできること:昼間の電力消費を増やす
- 中程度の投資:エコキュートの活用
- 本格的な投資:蓄電池やV2Hの導入
卒FIT後の太陽光発電は「収入源」から「節約源」へと役割が変わります。この変化をポジティブに捉え、自家消費率を高める工夫をすることで、引き続き太陽光発電のメリットを最大限に享受できるでしょう。
まずは自分の家庭の電力使用状況や発電量を分析し、どの程度の自家消費率が実現可能か、どのような設備投資が最適かを検討することをおすすめします。自家消費型太陽光発電への転換を通じて、より経済的で環境にやさしい、そして災害に強い住まいづくりを目指してみてはいかがでしょうか。