
FIT制度(固定価格買取制度)とは?仕組みと卒FIT後の選択肢を完全解説
FIT制度(固定価格買取制度)とは
FIT制度(固定価格買取制度)は、再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が国の定めた価格で一定期間買い取ることを義務付けた制度です。この制度は2012年7月に「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(FIT法)に基づいて開始されました。
対象となる再生可能エネルギーは、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスの5種類です。これらの再生可能エネルギーによる発電設備は初期投資が高額になりがちですが、FIT制度によって売電収入の見通しが立てやすくなり、設備導入が加速しました。
FIT制度の大きな特徴は、買取費用が再エネ賦課金として電気料金に上乗せされ、電気利用者全体で負担する点にあります。毎月の電気料金明細を見ると「再エネ発電賦課金」という項目があり、これがFIT制度を支える財源になっています。
FIT制度によって日本の再生可能エネルギーの導入量は飛躍的に増加しました。特に太陽光発電は、2012年のFIT制度開始前が累計約5GW程度だったのに対し、2017年3月末には約39GWまで増加するなど、大きな成果を上げています。
FIT制度が導入された背景
FIT制度が導入された背景には、主に3つの要因があります。
1つ目は、日本のエネルギー自給率の低さです。日本のエネルギー自給率は導入当時わずか8%程度と先進国の中でも最低水準でした。石油や石炭、天然ガスなどのエネルギー資源のほとんどを海外からの輸入に頼っている状況を改善する必要がありました。
2つ目は、2011年の東日本大震災後のエネルギー政策の転換です。震災と福島第一原子力発電所の事故により、それまでの原子力発電を中心としたエネルギー政策を見直す必要が生じました。
3つ目は、地球温暖化対策としての側面です。再生可能エネルギーはCO2排出量が少なく、環境負荷の小さいエネルギー源として、その普及が世界的な課題となっていました。
これらの背景から、日本政府は再生可能エネルギーの普及を加速させるために、諸外国ですでに導入されていたFIT制度を導入することを決定したのです。
FIT制度の仕組み
FIT制度の基本的な仕組みは、以下のようになっています。
- 固定価格での買取保証:再生可能エネルギーで発電した電気を、国が定めた価格で一定期間買い取ることを保証
- 買取期間:住宅用太陽光発電(10kW未満)は10年間、事業用太陽光発電(10kW以上)と他の再生可能エネルギーは20年間
- 買取の義務:電力会社は再生可能エネルギーで発電された電気を買い取る義務がある
- 費用負担:買取費用は電気利用者全体で負担(電気料金に上乗せされる「再エネ賦課金」)
FIT制度を利用するには、まず発電設備について経済産業省の認定(事業計画認定)を受ける必要があります。認定を受けた後、電力会社と接続契約を結び、発電を開始することで固定価格での売電が可能になります。
買取価格(調達価格)と期間は、経済産業省の調達価格等算定委員会で毎年度見直され、再生可能エネルギーの種類や設備の規模によって異なります。制度開始当初は高い買取価格が設定されていましたが、設備コストの低下に伴い年々引き下げられています。
卒FITとは何か?
**「卒FIT」**とは、FIT制度による固定価格での買取期間が終了することを指す言葉です。FIT制度では、住宅用太陽光発電(10kW未満)の買取期間は10年間と定められているため、2012年度に設置された住宅用太陽光発電設備は2022年以降、続々と「卒FIT」を迎えています。
卒FIT後は、これまでのように高い固定価格で電力を買い取ってもらえなくなります。つまり、FIT制度による国の買取保証がなくなり、新たな売電契約を結ぶ必要が生じます。
現在、多くの太陽光発電設備所有者がこの「卒FIT」問題に直面しています。2012年から2014年にかけてFIT制度を利用して太陽光発電設備を導入した方々は、すでに卒FITを迎えたか、まもなく迎える状況です。
卒FIT後の最大の変化は売電単価の大幅な低下です。FIT制度では、例えば2012年度に認定を受けた住宅用太陽光発電は42円/kWhという高い買取価格が10年間保証されていましたが、卒FIT後はこの保証がなくなります。
卒FIT後の買取価格の実態
卒FIT後の買取価格は、FIT期間中に比べて大幅に低下します。地域の電力会社が提示する卒FIT後の買取価格は、一般的に7〜9円/kWh程度となっています。これはFIT期間中の価格(例:42円/kWh)と比較すると、約1/5〜1/6の水準です。
例えば、以下のような価格差があります。
設置時期 | FIT期間中の買取価格 | 卒FIT後の買取価格(地域電力会社) | 価格差 |
---|---|---|---|
2012年度 | 42円/kWh | 7〜9円/kWh | 約33〜35円減 |
2013年度 | 38円/kWh | 7〜9円/kWh | 約29〜31円減 |
2014年度 | 37円/kWh | 7〜9円/kWh | 約28〜30円減 |
地域電力会社以外の「新電力」と呼ばれる電力小売事業者の中には、卒FIT電源からの買取に積極的なところもあり、10〜12円/kWhといった比較的高めの価格を提示するケースもあります。しかし、それでもFIT期間中と比べると大幅な減収は避けられません。
例えば、4kWの太陽光発電システムで年間4,000kWhを発電し、そのうち半分の2,000kWhを売電していた場合、FIT価格42円/kWhなら年間84,000円の売電収入がありましたが、卒FIT後に8円/kWhになると年間16,000円に減少し、68,000円もの収入減となります。
太陽光発電の売電収入と計算方法
太陽光発電による売電収入の計算は非常にシンプルです。基本的な計算式は以下の通りです:
売電収入 = 売電量(kWh)× 買取価格(円/kWh)
住宅用太陽光発電(10kW未満)の場合は、自宅で使った電力を差し引いた「余剰電力」が売電の対象となります。一方、事業用(10kW以上)の場合は、発電した電力のすべてを売電する「全量売電」が一般的です。
例えば、住宅用太陽光発電(4kW)で年間4,000kWhを発電し、そのうち2,000kWhを自宅で消費、残りの2,000kWhを売電する場合
- FIT期間中(買取価格42円/kWh):2,000kWh × 42円/kWh = 84,000円/年
- 卒FIT後(買取価格8円/kWh):2,000kWh × 8円/kWh = 16,000円/年
このように、卒FIT後は売電収入が大幅に減少することになります。ただし、自家消費分については電気代の節約になっているため、太陽光発電設備の導入メリットは依然として存在します。
売電収入と税金の関係
太陽光発電による売電収入には、税金が関わってきます。一般的に、家庭の太陽光発電による売電収入は「雑所得」として扱われます。
給与所得者の場合、売電収入など給与以外の所得(雑所得)が年間20万円を超えると所得税の確定申告が必要になります。逆に言えば、売電収入による所得が20万円以下であれば、所得税の確定申告は原則として不要です。
ただし、住民税については自治体によって取り扱いが異なり、所得税の確定申告が不要であっても住民税の申告が必要な場合があります。お住まいの市区町村の税務課に確認することをお勧めします。
なお、売電収入から必要経費(太陽光発電設備の減価償却費、メンテナンス費用など)を差し引いた金額が課税対象となります。太陽光発電設備は通常17年間で減価償却することが一般的です。
太陽光発電を事業として行っている場合(例:事業用太陽光発電や個人事業主)は、売電収入は「事業所得」として扱われ、金額に関わらず確定申告が必要です。また、年間の売上が1,000万円を超える場合は、消費税の課税事業者となる可能性もあります。
FIT買取価格の推移
FIT制度開始以来、買取価格(調達価格)は毎年引き下げられてきました。特に住宅用太陽光発電(10kW未満)の買取価格の推移は以下の通りです。
年度 | 住宅用(10kW未満)買取価格 |
---|---|
2012年度 | 42円/kWh |
2013年度 | 38円/kWh |
2014年度 | 37円/kWh |
2015年度 | 33円または35円/kWh(地域による) |
2016年度 | 31円/kWh |
2017年度 | 28円/kWh |
2018年度 | 26円/kWh |
2019年度 | 24円/kWh |
2020年度 | 21円/kWh |
2021年度 | 19円/kWh |
2022年度 | 17円/kWh |
2023年度以降 | 16円/kWh |
買取価格が引き下げられている主な理由は、太陽光発電システムの設置コストの低下です。FIT制度開始当初に比べ、太陽光パネルや周辺機器の価格は大幅に下がっています。これにより、新規に導入する場合の投資回収年数を一定に保つよう調整されています。
事業用太陽光発電(10kW以上)についても同様に買取価格は下がっており、特に大規模案件については2017年度以降、入札制度が導入され、さらに市場競争が促進されています。
このように、FIT制度は徐々に市場原理を取り入れる方向に進化しており、将来的には市場価格に連動したFIP制度(後述)への移行が進められています。
卒FIT後の選択肢
卒FIT後の太陽光発電設備の活用方法には、主に以下の3つの選択肢があります。
引き続き売電する
卒FIT後も、余剰電力を電力会社に売ることができます。ただし、買取価格はFIT期間中より大幅に低くなります。
卒FIT後に売電を続ける場合は、以下の点を検討する必要があります:
- 買取価格の比較:地域の電力会社だけでなく、新電力(新しい電力小売事業者)の買取プランも調査し比較する
- 買取条件の確認:買取価格だけでなく、契約期間や解約条件なども確認する
- 電力会社の信頼性:長期的に安定して買い取ってもらえる電力会社を選ぶ
新電力の中には、環境価値に着目して卒FIT電源からの買取に積極的な会社もあります。地域電力会社の7〜9円/kWhに対し、10〜12円/kWhといった比較的高い価格で買い取るケースもあるため、複数の会社の条件を比較検討することをお勧めします。
蓄電池を導入して自家消費を増やす
卒FIT後は、発電した電力をできるだけ自分で使う「自家消費」を増やすことが経済的にメリットがある場合があります。特に蓄電池を導入することで、より多くの自家発電電力を活用できるようになります。
蓄電池のメリットは以下の通りです:
- 自家消費率の向上:日中発電した電力を夜間にも使えるようになり、自家消費率が高まる
- 電気代の節約:卒FIT後の低い売電単価(例:8円/kWh)より、電力会社から買う電気の単価(例:25〜30円/kWh)のほうが高いため、自家消費を増やすほうが経済的
- 非常時の電力確保:停電時にも太陽光発電と蓄電池を組み合わせることで、必要最低限の電力を確保できる
ただし、蓄電池導入には初期費用がかかります。家庭用蓄電池のコストは容量にもよりますが、工事費込みで100万円前後することが一般的です。このため、導入にあたっては費用対効果をよく検討する必要があります。
また、国や自治体による蓄電池導入の補助金制度も活用できる場合があります。お住まいの地域の補助金情報を調べてみることをお勧めします。
PPAや新サービスの活用
最近では、卒FIT後の太陽光発電設備を活用する新しいビジネスモデルも登場しています。その一つが「PPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)」です。
PPAとは、太陽光発電設備を第三者が所有し、その電力を発電場所で消費するモデルです。卒FIT後のPPAでは、すでに設置済みの太陽光発電設備を活用したサービスも登場しています。
例えば以下のようなサービスがあります:
- 第三者所有モデル:太陽光発電設備の所有権を第三者に譲渡または貸し出し、発電した電力を買い取ってもらう
- V2H(Vehicle to Home):電気自動車と太陽光発電を連携させるシステム。電気自動車のバッテリーを家庭用蓄電池として活用できる
- ソーラーカーポート:太陽光パネルを搭載したカーポートを設置し、発電した電力を自宅や電気自動車の充電に活用する
これらの新しいサービスは、卒FIT後の太陽光発電設備の新たな活用方法として注目されています。各サービスの特徴や条件を比較検討することで、ご自身に最適な選択ができるでしょう。
FIP制度と今後の展望
2022年4月から、FIT制度に加えて「FIP(Feed-in Premium)制度」が導入されました。FIP制度は、再生可能エネルギーの電力を市場価格で取引しつつ、市場価格に一定のプレミアム(上乗せ)を加えることで、再エネ事業の収益を安定させる仕組みです。
FIT制度とFIP制度の主な違いは以下の通りです。
項目 | FIT制度 | FIP制度 |
---|---|---|
買取方式 | 固定価格買取 | 市場価格+プレミアム |
価格変動 | なし(固定) | あり(市場連動) |
対象 | 全ての再エネ | 主に一定規模以上の再エネ |
市場統合 | 低い | 高い |
FIP制度は、再生可能エネルギーを徐々に電力市場に統合していくための過渡的な制度として位置づけられています。将来的には、再生可能エネルギーが他の電源と同等に市場で競争できるようになることを目指しています。
現在の住宅用太陽光発電(10kW未満)は、引き続きFIT制度の対象となっていますが、将来的にFIP制度への移行も考えられます。また、卒FIT後の太陽光発電設備の活用方法としても、FIP制度への参加が選択肢の一つになる可能性があります。
日本のエネルギー政策は、再生可能エネルギーの主力電源化を目指しており、2030年度には再エネ比率を36〜38%にする目標を掲げています。この目標達成に向けて、FIT制度やFIP制度は重要な役割を果たすことが期待されています。
卒FIT設備についても、日本全体のエネルギー政策の中で有効活用していくための施策が今後も検討されていくでしょう。国や自治体の最新の政策動向に注目することをお勧めします。
まとめ:卒FIT時代の太陽光発電
FIT制度(固定価格買取制度)は、日本の再生可能エネルギー、特に太陽光発電の普及に大きく貢献してきました。しかし、10年間という買取期間の満了を迎え、多くの太陽光発電設備所有者が「卒FIT」という新たな局面に直面しています。
卒FIT後の主な選択肢として、以下のようなものがあります。
- 引き続き売電する:買取価格は大幅に下がりますが、複数の電力会社の条件を比較して最適な契約を選ぶことが重要です。
- 蓄電池を導入して自家消費を増やす:発電した電力をより多く自家消費することで、電気代の節約につながります。
- PPAなどの新サービスを活用する:第三者所有モデルやV2Hなど、新たなビジネスモデルも選択肢となります。
どの選択肢が最適かは、設備の状態や電力の使用状況、初期投資の余力などによって異なります。ご自身の状況に合わせて、メリット・デメリットを比較検討することが大切です。
卒FIT後も太陽光発電設備は価値ある資産です。発電効率は経年劣化によって徐々に下がるものの、多くの設備はメーカー保証(20〜25年)の範囲内であり、まだ十分に発電能力を持っています。
今後のエネルギー政策の動向や電力市場の変化によって、卒FIT設備の活用方法にも新たな選択肢が生まれる可能性があります。最新の情報を収集し、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
不安や疑問がある場合は、「卒FITナビ」のエージェントに相談してみましょう。専門知識を持ったアドバイザーが、あなたの状況に合わせた最適な選択をサポートします。卒FIT後も太陽光発電設備を有効活用し、エネルギーコスト削減と環境貢献を両立させましょう。